あらゆる境界線を軽やかに超えていく
有限会社森川レース
「○○と言ったら、○○。」と順番に答えていく遊びと言えば山手線ゲーム。突然ですが、ここで一回やってみたいと思います。お題は「レース」。
「レース」と言われてあなたは何を思い浮かべましたか?ドレス?下着?女性が身に着けるもの?どれも間違いないではないですが、今回の記事の「レース」とは少し異なります。
ぜひ最初に思い浮かべた言葉を覚えておいてください。きっとこの記事を読んだ後は解答が変わっているはずですから。
福井県に工場を構え、一見するとレースとは思えないような生地を作り上げている有限会社森川レース。この度、CRAHUGとの協業によって〈Rafield(ラフィールド)〉という新たなブランドが立ち上がりました。ブランド立ち上げに至るまでの経緯や、森川レースのモノづくり、工場の様子まで、レースを編むかのように事細かに紹介していきます。最後までご覧ください。
取材対応してくださった代表取締役の森川英樹さん
レースであり、レースではない。
ー創業は何年になりますか? 【森川】創業は昭和38年。私の3代前から始まりました。もともとは織物を中心に製造していたと聞いています。レース生地が織物と同様に洋服になる風潮があったことから、福井県でも早い段階でレース生地を専門とした工場に転換していきました。現在は6名のメンバーで生地作りを行っています。職人さん3名と、自分の娘2人と一緒に会社を運営しています。
ーどのような原料を用いてレース生地を製造していますか? 【森川】合成繊維と天然繊維、どちらも使用して生地を作っています。レースの基本となるのは、ナイロンです。ナイロンの糸はある程度伸度(伸び縮みの出来る)があり、レース機で編みやすいからです。ポリエステルも扱うことが出来るのですが、ナイロンの方が高級感もあり柔らかさもあるので、こちらを中心に使用しています。このナイロンを基本にして、コットンやリネン、ウールなどの糸を掛け合わせていくようなイメージです。
ー森川レースで作られる生地はデザインや質感が特徴的ですが、一般的なレース生地とは異なりますよね? 【森川】そうですね。レース生地はインナーレースとアウターレースの2つに分類されます。一般的に想像されるのは女性の下着に用いられるような生地ですが、こちらがインナーレース。一方、弊社で製造しているレース生地は主にアパレル用に作られるもので、アウターレースという種類に分類されます。
ーどのような機械を使って生地が出来上がっているのですか? 【森川】ラッセルレース機という編み機を用いて製造しています。一般的なレース機とは異なり、針と針の間隔が広いため、太番手の糸も扱うことができ、ざっくりとした質感で編み上げることが出来ます。一般的な編み機では扱うことが出来ないような天然繊維の太めの糸も難なく扱うことが出来るのが特徴です。
ーブランドの語源にもなっているラッセルレース。もう少し詳しく教えてください。 【森川】ラッセルレース機で編まれたものをラッセルレースと言います。この編み機はドイツのカールマイヤー社が製造していたもので、今は製造していない絶版の物です。そして残念なことに国内にはもう数えるほどしかありません。いまあるものをどのように残していくかが重要になるほど、貴重な編み機です。
ラッセルレース機は古い分、手間がかかり無人では動かすことが出来ません。一台に一人付きっきりで見守っているようなイメージです。例えると、ラッセルレース機はクラシックカーで、現在主流になっている高速の編み機はスーパーカーになるかと思います。編み込むスピードも、手のかかり方も全く異なります。クラシックカーは日々のメンテンナンスを欠かすとすぐに動かなくなる。部品が壊れることも、エンジンがかからなくなることも、ヘッドライトが付かなくなるようなことも日常茶飯事です。ラッセルレース機でモノづくりをするという事は、日々こうした不具合と向き合うことと同義なのです。
ただその一方、ラッセルレース機でしか表現できない生地の風合いがあり、それを森川レースでは大切にしています。ラッセルレース機は高速の編み機とは異なり、ゆっくりと編み立てるため生地は柔らかくふんわりとした質感に仕上がります。それはどんなに高速化して自動化して便利になった編み機でも表現することの出来ない風合いなのです。〈Rafield〉で使用している生地はすべてラッセルレース機で編み立てたものになります。
性別を、境界線を、国境を越えていく
ー〈Rafield〉に使われている生地は男性でも着用できるようなデザインのものですが、このような生地を作ろうと思った背景を教えてください。 【森川】森川レースに入社して以来、女性もののレース生地を中心に製造していました。花柄や繊細な柄ばかりで、それに少し飽きてきたというのが本音です(笑)。それに加えてレースにはもっと幅広い可能性があると信じていました。男性に選んでもらえるようなモノづくりをしたいという事は、僕の根底にずっとあり、それに共感してくれる人に届けたいという想いから、このような生地を作り始めました。
ーどうして自社ブランドを立ちあげようと思ったのですか? 【森川】洋服はずっと好きだったので、生地だけでなく製品を作りたいという気持ちはずっとありました。梶原さんと〈andante〉(生地ブランド)を立ち上げたときから、マイルストーンとして自社ブランドの立ち上げは決まっていました。いずれは必ず形になるものであり、それが今だったという事です。
ー〈Rafield〉というブランドを通じてどんなことを伝えたいですか? 【森川】”日本の工場で作られた”というストーリー性を楽しんでほしいです。今、売れているような欧州のメゾンブランドも、工場や工場から派出したものが多くあります。時代は変わっていますが、それと同じような動きを自社で行っていると思うとワクワクしてなりません。それもお客様に伝わると良いなと思います。
ただその反面、”日本製”という切り口だけで商品を販売することはしたくないです。まずは大切になるのは商品そのものの恰好良さ。それが一番に購買の動機になるべきだと思います。デザインや形が格好良いから買う。買った後で日本で作られたことを知るくらいがちょうどいいかと思います。世の中に数多くあるアパレルブランドの一つのとして、純粋に勝負したいと思っています。
ー5年後、10年後、〈Rafield〉がどんなブランドになっていてほしいですか? 【森川】海外展開できるようなブランドでありたいと思います。まずは着実に日本のお客様を獲得することが重要ですが...。着実にステップを経て、海外のお客様にも知ってもらえたらいいなと思います。出来上がった商品もデザインが効いていて、程よくクセもある。海外のお客様の方が好んで着ていただけるのではないかと思います。日本で作られたレース生地で世界に羽ばたきたいと思います。