【対談】
オンワードホールディングス 保元道宣
未来を描く「サステナブル経営」

CRAHUGは株式会社オンワードデジタルラボの新しいプロジェクトとして2021年9月に立ちあがりました。今回の対談では、CRAHUGのディレクターを務める梶原さんとオンワードホールディングス代表取締役社長である保元と共に、二人が目指す「サステナブルなファッションの在り方」について話をしてもらいました。サステナブルという言葉は、持続可能性という意味を指します。この言葉は単なる環境問題だけではなく、地方創生、不自由のない働き方などの複数の幅広い意味を内包しているものなのです。そんな「サステナブル」をキーワードにもとに行われた二人の対談の様子を記事にまとめました。

左:CRAHUGディレクター梶原加奈子
右:オンワードホールディングス代表取締役社長 保元道宜

キレイゴトだけではない、全社員で臨むサステナブル経営

【保元】いま会社の経営にあたっては、「サステナブル経営」という言葉は欠かせないものになっていると感じています。ただ残念なことに、ここ数年アパレル業界は環境にネガティブな業界として挙げられることが多く、イメージが悪かったと思うんです。生活を豊かにする産業のはずなのに、そのように見られていることに危機感を感じていました。そんな中で、2021 年にオンワードグループの中長期経営ビジョン「ONWARD VISION 2030」を発表し、2030 年度の経営目標を達成するための5つの戦略のうちの1つとして「地球と共生するサステナブル経営の推進」を掲げています。

【梶原】私は海外の仕事も多くやっている中で、2017年以降海外ではかなりサステナビリティマインドが強くなったことを感じていました。日本は少し遅れてCOVID-19の影響を受け、マインドが大きく変わったと感じます。服を廃棄することのエネルギー負荷は大きいですし、私の専門分野であるテキスタイルも水やエネルギーを使うので、資源を使う難しさを感じています。現在テキスタイルの開発においては、環境に優しいものについて常に話し合いながら進めている状況です。ただ生活者にどの程度のスピード感で伝わっていくのかということについては予測がつきません。製造側がいくら環境を変えたとしても、生活者との関連性がなくては意味がありません。一緒に考える関係性を、生活者と結んでいくコミュニケーション方法を考えるのがとても重要だと思います。

【保元】“常に新しくて良いものを安く提供しないと生き残れない”というような考え方になってしまうと、どうしても環境問題などのサステナブル経営の部分にしわ寄せがいってしまいますよね。社員の働き方についても同様だと思っています。値段ばかりを主眼に置いた競争の時代が長く続いたことが影響しているかと思いますが、結果としてワークライフバランスを保つことができない働き方になってしまっていました。もちろんお客様の価値観や発想も変わっていかないといけないんでしょうけれど、私たちがこだわりを持って作ったことが値段に現れたとしても、それを理解していただけるお客様とのコミュニケーションにより、伝えていくことが重要だと思います。

【梶原】一方向だけでは伝わらないですね。双方に考えていかなくてはなりません。

【保元】そうですね。販売の現場も含めて全社員にサステナブル経営の考え方を共有することがとても大事です。経営トップの課題のような形でキレイゴトを言うのではなく、全社員が考えているという状況でなくてはならない。特に「ONWARD VISION 2030」を発表した後にも状況は変わっているので、常にやるべきことを考え、実行し続けなくてはいけない。でも、経営としては正直言うと不安ですよね。値段を上げたら売れなくなってしまうんじゃないかという思いもあります。この辺りの今後の動向はすごく興味深いですね。

【梶原】今は、ファストファッションの大量生産からスローファッションの個別に販売していくマインドが生まれてきている時代です。そういう意味ではお客様とコミットメントしながら「その分だけ作ります」また「それを期待してください」と会話ができることは重要だと思っています。ですので、私の監修するブランドについても伝える力というものはすごく強化しています。どう作って、どう生産されて、どういう工程で作られたかというストーリーを伝えて共感が集まりやすい活動をしていく企業やブランドは増えていくと思います。そして、その伝えたお客様に愛着をもって長く使ってもらう、もしくはリユースやリペアへ愛着を持って出してもらえるような社会作りといった部分に、アパレル産業は非常に重要な役割を持っていると思います。

新しい時代の働き方の選択

【梶原】地産地消の話が最近注目されているように感じています。物流コストとそれに対するエネルギー使用という部分に関しては、多くの方が知識を持ち始めたかなと思います。わざわざ産地から離れて、例えば都内で販売するというのではなく、産地の地域の方々へ販売し、コミュニティづくりまで行うという工場が急増しています。

【保元】今、若い世代が未来を感じて仕事として選んでいただけるかどうかということが、地産地消ビジネスで最も中心の部分になると思いますね。これまでは就職といえば東京や大阪などの都心部へ行く、というような時代が長かったので、一極集中が当たり前でした。ですが、働き方とか生き方について、若い世代が今後どのような異なる価値観を持ち始めるのかというのは、確証をもってイメージするのが難しいですね。

【梶原】COVID-19の影響を受けて、地方で暮らすことも良いんじゃないか、という考えは広がっていますよね。工場も注文を受けた商品を作ることだけという限定的な概念にとらわれると、人が根付かず辞めてしまう可能性がありますが、コミュニティ作りとか、プラットフォーム作りとか工場でも生み出す力をつけてアクションができると人が集まって来るのだと思います。

【保元】おっしゃる通りですね。梶原さん自身もそうされていますが、例えば地方に住んでいても本社のある東京とも関わりを持つ、というようなことも良いですよね。都会だけや地方だけで生きていくというような極端なことではなくて、両方の良いところを取り込めるライフスタイルや働き方が選択できれば良いのかなと思います。当社が 2019 年から取り組んでいる「働き方デザイン」は、生活を楽しんでいるから、自分の個性を活かした仕事ができる/仕事の成果に繋がる、ということを目指していて、表裏一体なんだと思います。

【梶原】様々な働き方というのが望まれている社会に変化しているので、弊社も50代以上の経験者を再雇用し、働く日数を自由に選べる制度を導入しています。また、20~30代の方々というのは人生に色々なことが起こるタイミングですので、メンタルケアにも注力しています。働く選択肢が広がるがゆえに悩む人も多いということですね。

地域とのつながり、パートナーと共に

【保元】2016年に立ち上げた日本全国のおいしいお取り寄せグルメを集めた「オンワード・マルシェ」は、地方で育まれている価値の高いコンテンツに光を当てています。日本には世界に誇れるものがたくさんあるので、そういうものを世界に発信していけたら良いなという想いでスタートしました。アメリカや中国に比べると日本は小さい国ですから、規模で勝つということは難しい。ただ、規模は小さくてもユニークで真似ができないものを持っています。食品というのは、どうしても土壌や水質などが直接関係してくるので、簡単には真似できないということで「オンワード・マルシェ」を始めました。 梶原さんにディレクターを務めていただいている日本のモノづくりを支援する「CRAHUG」は、「オンワード・マルシェ」と発想は同じです。農業から発生したものに繊維産業がありますよね。本業であるファッション分野で何かができれば良いなと以前から思っていたので、梶原さんとの出会いもありスタートすることができましたね。

【梶原】国内の工場は、繊維産業が成長期の間、委託加工の発注を待つことに慣れていました。でも、2000 年の前半ぐらいでそういった時代感は終わっていたように思います。自分たちが何か特技や強みを持って、どうにかして作ったものを売るというマインドへ変わっています。また、世代交代に問題を抱えている工場も多いので、次世代に関心を持ってもらうためにも発信力を強化していく必要がありまして、ファクトリーブランドをやっていきたいという流れが強まっています。ただブランドづくりや商品化して自ら販売をするという部分は経験や知識が足りないように感じます。その問題を解決するものとして、工場を支援するプラットフォームとしての「CRAHUG」の役割は大きいと思っています。

【保元】地域との繋がりや地域のモノづくりを担うクラフトマンとの繋がりは、これからも幅を広げていきたいと思っています。スポーツは今とても盛り上がっていますよね。やはり故郷のものをみんなで応援したいというそんな気持ちがあるのだと感じています。

【梶原】「CRAHUG」で〈aiile〉という秋田にある工場のファクトリーブランドの立ち上げに携わらせていただいたのですが、ブランドを立ち上げたいという理由の根幹にあるのは、秋田の人に向けて「秋田でこんなことができるよ」ということを自らが頑張ることで見せて、地域の人の元気や励みになってもらいたいという想いだと聞いています。あえて挑戦をしなくても経営自体は順調だったようですが、それでも挑戦する意義があるということでしたね。

【保元】今年に入って越境販売も開始しましたね。日本のユニークでマネのできない商品を世界に発信したい、販売したいというビジネスモデルのイメージがゴールとしてはあるので、そこに向けて少しずつ経験を積み重ねていってほしいと思っています。まずは越境 EC からスタートしましたが、もう一つは「CRAHUG」の取り組みを理解してくれるパートナーと共に、海外でもリアルに販売していくということができれば理想的ですね。

【梶原】日本の文化から生まれたものに対する海外からの評価は高いと感じます。日本のおもてなしの文化や禅の心というのは、島国の自然崇拝の中から生まれた独特な感性です。COVID-19 の影響で世界中が不安な思いをした中で、心の拠り所となる禅の心に現れる前向きな気持ちへの関心が高まっています。日本庭園や茶道等も人気で、それに通ずる盆栽や茶器、陶器などが海外からも評価をいただいています。「CRAHUG」は取り組みの意義や1つ1つの商品のストーリーを丁寧に伝え、ファンになってもらえるパートナーを増やしていきたいと考えています。 私の本職であるテキスタイルの動きとしては、環境に負荷がない製造方法の選択や、循環する素材の活用が大きな課題となっています。サーキュラーファッションの発展に向けて、一歩先の開発を進めているところです。日本のテキスタイルが世界をリードしていけるように、サステナブルを意識したうえで特化した技術やデザイン性を掛け合わせて工夫しています。今まで培ってきた海外での経験を活かして、日本産地のグローバルな活躍をサポートしていきたいです。それ以外にも様々な課題はあるのですが、1つずつ丁寧に解決していこうと思います。

【保元】そうですね。今我々が取り組んでいることや課題についても、社内だけにとどまらずステークホルダーの皆様や社外のパートナーともシェアをして輪を広げていきたいですね。もちろん社内でも全社員が意識を高め、当事者となってどうすべきかを考えて行動していくようになっていかなくてはいけません。社内外、国内外に関わらず、まず伝えなくては輪を広げていくことはできません。コミュニケーションを大事に今後も取り組んでいきたいと思います。

Text & Photo:
宮﨑涼司

人一倍、服が好きなCRAHUGのジャーナル担当。給料のほとんどをファッションへ投資する。好きなメディアは「AWW MAGAZINE」と「NEUT MAGAZINE」。

Date: 2022.09.22

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