職人技の結晶。
日本製ジーンズが出来上がるまで。
有限会社タンデム

「デニムといえば、岡山県。」 そう思う人も多いのではないだろうか。諸説あるが、群馬県で初めて日本製デニムが誕生した。そこから事業の拡大に合わせて、当時学生服の縫製業が盛んで、学生服という厚みのある生地を縫製していた岡山県の工場であれば、同じく厚い生地のデニムも縫えるのではということで、岡山県でのデニムの縫製が盛んになっていったとのこと。一方、人不足などの理由で群馬県にあった工場が宮城県に移転、実は今でもデニム工場が点在しているくらい宮城県もデニム産地なのだ。

今回はcaquのデニムを作っている現場、宮城県の縫製工場と加工工場の職人技をご紹介。 「デニムってこんなに奥深いんだ。」とそう思えて、「本当にいい」ジーンズが出来るまでに迫れた取材だった。



■古いミシンが織りなす日本製ジーンズ

40年以上の歴史がある縫製工場。元々は宮城県は石巻に工場を構えていたものの、東北大震災の津波の影響で倒壊、今は栗原に移転し、なんと3人で運営されている。

デニム好きには堪らない様々なデニム生地が混在している。

大きい鋏で、型紙ごとに生地が切り取られる。ジーンズの型紙については、発祥の地アメリカでどれだけ効率的に無駄なく作れるかに重きを置いて考え抜かれた結晶が今の形だそうだ。皆さんが持っているジーンズを確認してもらえれば分かる通り、裁断されるパーツは多い。

今回は白いオーバーオールへのポケット付けを見せていただいた。特にオーバーオールだとパーツが多いので、工程数も自ずと多くなる。多種多様な形のデニムを縫製してきたベテランの職人だからこそ、ミシンの針を迷いなく進ませていた。

元々ワークウェアだったからこその補強である「かんぬき止め」をポケットのそれぞれの部分に施す。ミシンの抑え金の形に針が自動的に動き縫製される。 1940年代頃まで、このかんぬき止めによる補強には後述する「リベット」と呼ばれる金具が利用されていたが、当時のジーンズのユーザーであったカウボーイからすると金具が馬の鞍を傷つけてしまったり、外作業の多い作業員からすると太陽光が金具に当たり熱くなるということから、バックポケットや股の補強の大部分はかんぬき止めに移行されたとか。

こちらが前述のリベット(金具)を取り付けるマシン。前面と裏面の両方にでる金具をマシンの上下にセットする。

赤いマークが目印で、目視だと一瞬でリベットが取り付けられる。現代のジーンズでいくと、フロントのポケットの端を補強するのによく使われているので今後ジーンズを見る際はこのリベットにもぜひ注目してみてほしい。

ジーンズ縫製で面白いのが、工程ごとそれぞれに対して専用にミシンがあることだ。こちらはボタンホール用のミシン。

ボタンホールを開けたい部分に抑え金を下ろして、まずそこに刃が通り穴が開く。そして穴が開いた周辺を糸で補強をするという流れ。ジーンズでよく見るボタンホールはこのように縫製されている。

熱狂的なマニアがいるといわれる、とても古い「Union Special」というミシン。

このミシンで生地と生地を繋ぎ合わせていく。一見抑え金に二つの生地を入れ込み縫うということだけの簡単な作業に見えるが、そもそもこの抑え金に綺麗に二つの生地を入れ込むことが難しく、職人が成せる技である。

こちらは裾を縫う別の「Union Special」のミシン。

通常のミシンで裾を縫う時は、裾端を二重に折り込みズレないよう手で押さえながら縫う。しかし、このミシンは裾端をそのまま抑え金にセットすると勝手に端を二重に折り込み縫ってくれる優れもの。

裾の縫製の完成版。基本的にジーンズの裾は「チェーンステッチ」と「シングルステッチ」のいずれかで縫製されている中で、此方は裏の縫製が鎖のような見た目のチェーンステッチ。チェーンステッチの特徴としては、縫い目の部分の生地がボコボコとしており色落ちをすると味わいのある表情になる。

ここまで見せていただいた縫製は、熟練の職人にとってはいつもの作業という感覚かもしれない。しかしどの工程もデニム生地や縫い糸の素材、それぞれのミシンの特性、ジーンズの作りまでのすべてを知り尽くして、ご自身でそのすべてを経験しているからこその技術の結晶であり、それがcaquが表現したい日本の職人にしか作りだせない「味わい」なのである。



■独自の職人技術と感覚が生み出す極上の加工

caqu以外の様々なブランドの加工も手掛ける1988年創業の加工工場。ジーンズの一環加工をしており、主な工程としては、シェービング→洗い加工→プレス・検品検針・付属類の取り付け→梱包出荷となる。

今回は特別にcaquのリネンデニムのシェービングを見せていただいた。

加工前の濃紺の生デニム。ここから職人がすべて手作業で加工を行っていく。

まずは、「ヒゲ」(太もも部分の色落ち)加工。企業秘密の一つである工場独自の凹凸を施したビート版のような板を下に敷き、その上をやすりで地道に擦っていく。このやすりと次のシェービング器を使用した際の力加減や擦り具合については、驚くことに出来上がりのイメージに対してすべて職人の感覚で調整されている。ヒゲの出方を調整するときは、同様に感覚で板の凹凸を変えているとのこと。

左が擦り前、右が擦り後。完成品がこの色落ちなら、こういう凹凸の板で、この力具合でやるという、圧巻の職人技である。

次にこちらも企業秘密、複数のシェービング機、やすりを使った擦り工程。ここでも擦り具合を感覚で調整している。工場によりこのシェービング機や、やすりはそれぞれ独自のカスタマイズをされているとのこと。(そのため画像でもぼかしている。)

職人のシェービング工程によって削られた生地部分がほこりのように至る所に舞って落ちている。

そして加工が完了。この絶妙な擦り具合がcaquの味わいのある色味の元である。

FS linen ankle boy`s

¥18,700(税込)

DETAIL

そしてここからウォッシュが成されて完成した商品がこの3カラーの中の一番右。これまでの職人の擦り作業あってこそ、この表情が生まれるのだ。

こちらが洗い加工をするウォッシャー。商品や色落ちごとに特にこれという設定や時間指標はないらしく、完成品に合わせて何度も目視で色の落ち具合を確かめながら洗うという、何とも手間のかかる作業である。

また、軽石を投入されているウォッシャーも別にある。ここにジーンズを入れてウォッシュをすることにより、軽石で生地自体を削って色落ち加工(ストーンウォッシュ)をさせている。ちなみに使用している軽石は国産である。海外産軽石の方が低コストではあるが鉄分が高く洗い後に軽石の粒がデニムに残りやすいために、軽石までも国産にこだわっているとのこと。

洗い後に入れ込む、乾燥機。画像の通り、ジーンズが乾燥機の中で宙を舞っている姿は圧巻の一言。

こちらは縫製工場にもあったリベット&ボタン付け。

縫製工場のものと同じく一瞬でボタンが付けられる。ジーンズのボタンはよっぽどのことが無ければ外れることはない。

リベットやボタンなどの付属品が取り付けられた後、加工の仕上げとしての伸ばし工程。ここまでの加工や縫いで出来たシワを伸ばすために、特殊な機械にジーンズを吊るし、中に蒸気を流し込みシワを無くす。

出来上がったジーンズに問題がないか確認と最終仕上げをする検品作業。ジーンズ全体に傷や汚れがないかを確認しながら、糸の後始末をしていく。

そして検品のプロたちによって発見されたのがこちら。赤枠の糸のほつれがあったとのことで、この後工場で補強をしている。このレベルのほつれや傷などをないように、目を凝らして検品している作業もジーンズを知り尽くしているからこその職人技の一つである。

検品後は、ここまでの縫製・加工工程の中で針が残っていないか確認する機械にジーンズを通す。万が一、針が入っていた場合はこの機械が反応してくれる。

人と機械の手によってしっかりと確認されたジーンズがブランドタグ付けをされ、袋に入れられて出荷されてゆく。ここまでの工程があって、味のある日本製ジーンズが生み出されるのだ。

「ハイグレード製品めざせ」とは先代の言葉とのこと。ジーンズの加工から検品まで、「サンプルに忠実に」をルールとして、一切の妥協を許さない。特に難しいのは、シェービングと洗いにおける完成品への色合わせ。同じ型100本をすべて同じような表情にするという職人技術が必要で、一人前になるには最低でも3年以上はかかるとのこと。そんな手間ひまかけて、職人の手から生み出される極上の一本が「本当にいい」ジーンズではないだろうか。



穿く人のことを考え抜かれた企画から、縫製、加工という日本の職人技術の結晶、caquのジーンズ。季節やシーンを問わず、いつでもファッションにおける大黒柱であるジーンズには、ぜひ「本当にいい」ものを選んでほしい。

そんなcaquのデニムは以下からぜひご覧いただきたい。

  • 有限会社タンデム

    有限会社タンデム

    「毎日食べても飽きの来ない白いご飯の様に、トレンドに左右されずいつまでも愛用頂ける商品」をコンセプトに掲げる国産デニムブランド「サキュウ」。日本人の女性にあった独自のパターンメイキングは「穿き易さ」と「美しいシルエット」を兼ね備えている。タンデムが考えるジーンズ本来の役割は白ごはん。同じトップス(おかず)は2日連続じゃイヤなのに、ジーンズ(白ごはん)は毎日穿いても抵抗がない。コーデを選ばないし、いいジーンズはさりげなく全体を引き立ててくれる。タンデムはこれからも、この先も、Made in 東北の職人技を詰め込み手間ひまかけた本当にいいジーンズを追求し続けてゆく。

Text & Photo:
田中駿介

CRAHUGの撮影兼販促担当。Nikon Z8を片手に風景やヒトの写真を撮りながら、珍しいヴィンテージウェアを探し歩くのが日課。

Date: 2024.08.07

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