突然ですが、今日の夕食は何を食べますか? 昨日は焼き魚だったから、肉料理にしよう。メインのおかずはどれにしようが迷いますが、お米はほぼほぼ毎日に近い頻度で食べられている人も多いはず。

それを服に置き換えてみると。昨日はあのTシャツ(おかず)を着たから今日は違うのでいこう。だけどボトムス(お米)は同じにしよう。良いボトムス(お米)は、コーデ(おかず)を選ばないし、さりげなく全体を引き立ててくれるので、毎日ではなくとも頻度高く穿くことも多いと思います。

毎日穿いても抵抗がない、「本当にいい」デニムを日々追求する日本のデニムブランド、caqu。 今回はそんなcaqu代表の鶴丸さんにブランドについて深掘りしていきます。

Youtubeではインタビュー動画をUPしておりますので、ぜひこちらもご覧ください。

caquの代表取締役の鶴丸 直樹さん。



■穿く人のことを考えてこだわり抜かれたデニムブランド

―ブランドの由来とコンセプトを教えてください。

【鶴丸】caquは2006年にスタートして、漢字で書くと「砂空」、「砂」はデニムのウォッシュ加工であるストーンウォッシュ、「空」はインディゴブルーに由来します。

コンセプトとしては「ヴィンテージ・ワーク・ミリタリー」、「男っぽくて女っぽい」をコンセプトとして、作りこみは男らしく、シルエットは女性的な美しさを追求しています。基本的にはラインが三つあり、「アンティークライン」と「フレンドシップライン」、「レギュラーライン」があります。アンティークラインについては、メンズのヴィンテージや古着をベースにして、造りはメンズそのものだけど女性が穿いて美しくなるようパターンや加工、メンズそのままの生地を使うと重たくなってしまうので素材含め工夫を凝らしています。

フレンドシップというのは、女性に特化したラインで、ブルキナファソという西アフリカの国のコットンを使用しています。ブルキナファソは世界最貧国の一つとされており、その国の輸出品の第二位であるコットンをスイスで綿にして、日本に輸入して紡績、生地にしています。1着、250円の寄付金を商品価格に含んでおり、毎年一回ブルキナファソ友好協会に寄付をし、そこからブルキナファソ現地の小学校や井戸の建設にも貢献しています。レギュラーラインはアンティークにも、フレンドシップにも属さない自由な発想から生まれたラインになります。

日本ブルキナファソ友好協会からの感謝状

―特に「アンティークライン」に関してのこだわりを詳しく教えてください。

【鶴丸】アンティークラインのデニムについては赤耳を採用しています。普通の赤耳(セルビッチ)デニムにはストレッチは入っていないのですが、アンティークのモダンシリーズはストレッチが入った赤耳デニムです。赤耳デニムもストレッチデニムも共に生地自体がねじれやすく、赤耳かつストレッチのデニムはとてもねじれやすいので、あまり世の中では流通していません。普通に縫製をすると、脇の縫い目が内股にくるくらいねじれますが、caquの赤耳ストレッチデニムはほぼねじれていません。

左が筆者私物の80年代のジーンズ、右がcaquのジーンズ。左の私物だと生地がねじれて耳が真ん中に来ている。

―そのねじれは良くないものなのでしょうか。

【鶴丸】ヴィンテージ好きの男性であればこのねじれはカッコいいという声もありますが、履き心地もそこまで良くないですし、見た目も悪く見えてしまいますので嫌がられることが多いです。デニム業界では赤耳だからねじれるものなんだという、赤耳生地の特性だと言われていました。某大手企業で働いていた時代の上司にねじれない縫い方はないのかと相談した時には、「そんなものはない!」とも言われました(笑)。そこで縫い工程を検証して試行錯誤した結果、ねじれない方法を発見しました。ヴィンテージをそのまま作り込むと、ヒップが食い込んだり、フロントの股にしわが入ったりするので、パターンのバランスを工夫することで赤耳だけどしわを少なくして女性が穿いてキレイになるシルエットを実現しています。

―ストレッチ混ということですが、綺麗な色落ちをしていますよね。

【鶴丸】ストレッチ混のデニムにも織り方があって、ガーゼみたいな密度で織って、洗うことでストレッチが入っている横糸の密度を詰めて伸びしろを作るわけです。洗うと密度が高まることで横糸が表面にあまり出てこなくなり、表情が真っ平になり色が濃くなり色落ちの表情が出にくくなります(綿100%は横糸も表面に出てきて縦横糸の凹凸が出ます)。

modern straight レギュラーストレートデニムパンツ

¥29,700(税込)

DETAIL

そこでcaquのストレッチ混のデニムは最初にガーゼのような密度にしないように織っていて、最初から伸びしろがあまり出ないように縫うことで横糸が表に出て、穿きやすい弱ストレッチながらも良い色落ちの表情を作ることが出来ているのです。

―caquの代表商品として「リンゴデニム」もありますが名前の由来と特徴を教えてください。

【鶴丸】caquでは、リネンデニムを「リンゴデニム」と呼んでいて、由来は重さがりんご(約300g前後)と同じだからです。

左が通常のデニムの重さ:約600g程(量れる重さを針が振り切っている)、右がリンゴデニムの重さ:約320g程

以前はアンティークラインで縦糸と横糸をリネン100%にしたデニムを作ったことがあるのですが、表情がデニムっぽくなくてリネンリネンしたものになってしまいました。デニムというのは縦糸が表地で横糸が裏地になるのですが、縦糸を綿にしてしまえば表情はデニムで横糸をリネンにすれば素肌に当たる部分が優しい肌触りのリネンになるということで開発しました。

左がコットンデニム、右がりんごデニム。どちらもとても良い表情で仕上がっています。

従来のデニムブランドは夏が苦手でしたが、caquでは夏に穿けるデニムを追求して、本格的なデニムらしい見た目の軽くて通気性の良い「リンゴデニム」が誕生しました。

>>caquのリンゴデニムはコチラ

■わかる職人が作るからこその味わい

―caquの商品はすべて日本製、そしてMade in 東北とのことですがなぜ日本製にこだわられているのでしょうか。

【鶴丸】中国製というのは、中国の工場で検品して、日本に入っても検品するという色々な場所で検品する流れになります。中国での大量生産というのはその中で誰が検品しても同じ結果ではないといけないため、陶器で例えるならば誰でも検品しやすい白くてまん丸い器でなければなりません。しかし、"味"のある陶器は必ずしも真っ白でまん丸いものというわけではなくて、ある程度ゴツゴツして歪んでいた方が美術的価値があると言われますよね。日本の工場の職人さんたちは何が"味"なのかを分かって検品をしているので、多少の寄れやズレなどを"味"、いわゆる価値として判断できるんですよね。なので、caquの商品は日本製にこだわっています。

―デニムづくりの工程としては縫製、加工とありますが、まずは縫製工場の特徴を教えてください。

【鶴丸】設備そのものが古いということですかね。ミシンで古いものだと70年代のミシンを使用していて、そのミシンならではの味わいが良く出ています。

とても古いミシンの「UNION SPECIAL」。マニアからすると堪らないらしい。

古いミシンだと厚みのある部分を縫製するときに、段差を超えると抑え金が上がっていくのでミシンの目が詰まっていき、段差を降りるときには広くなっていくんですよ。先ほどの陶器の例えでいうと同一のピッチで縫われていないと美しくないという判断をされてしまいますが、これこそがcaquが求める味わいなんです。

良く見ると特に生地が重なる部分の縫い糸の間隔が一定ではない。

―次に加工工場の特徴を教えてください。

【鶴丸】こちらも東北の工場を使っているのですが、すべての工程が一つの工場で完結するということで、一人の管理者ですべての工程に目が届くことです。

―デニム加工における特徴を教えてください。

【鶴丸】シェービングという工程で、サンドペーパーを手で持って擦っていくという作業です。

圧巻のこすり作業。今まで培った「感覚」のみでこすりの度合いを調整している。

もっと効率的に加工をしようとなるとサンドブラストという砂を生地に吹きかける手法もあります。その二つの違いとして、デニムには太い糸の部分と細い糸の部分があるのですが、シェービングは物理的に手作業で擦っていくため、しっかりと太い部分から先に擦られて白くなっていき本当に穿き込んだような味のある縦落ちになります。一方サンドブラストについては太い細い関係なく均等に色が薄れていきますので、caquとしてはより味の出るシェービング加工をすべての商品を施してもらっています。

―冒頭の日本製にこだわる理由に関連しますが、加工工場での検品について詳しく教えてください。

【鶴丸】先ほどまでに説明した通り、ほぼ手作りの商品なので一つ一つ個体差があるんですよ。その個体差の部分で、何がカッコいいかを分かっている人が検品するからこそ、大量生産では出せない"味のある"商品をお客様にお届けできています。

赤枠部分が意図しない色落ちとのこと。

これは味ではなく不良ということで弾いています。阿吽の呼吸でこういう味なのか不良なのかを判断できるというところが日本製の強みではないかと思います。

■ はなまるを貰えるようなものづくりを心掛けて

―なぜ鶴丸さんは、服、そしてデニムに関わろうと思われたのか教えてください。

【鶴丸】実家が洋服屋で、生まれたときから洋服に囲まれてました。鹿児島の田舎なので、農作業とかのための作業服を扱っていました。そういう背景からワークウェアには興味があって、そしてちょうど僕が就職するときにヴィンテージブームがあったところに、ジーンズも作業服の一つだということも知って、ジーンズに興味を持っていきました。

―ものづくりにおいて、鶴丸さんの中で大事にされていることやルールを教えてください。

【鶴丸】僕自身が某大手ジーンズメーカーに就職してから1年間工場に住み込んで、工場のことを学んできた経験があるので、その経験をしっかり活かしたものづくりを心掛けています。縫いやすいけどキレイなシルエットが出るもの、直線で縫っているけど洗うと縮みカーブになるだとか自分のノウハウを基にものづくりをしています。

デザイン企画、パターン製作、縫製までご自身で一本のジーンズを作れてしまう鶴丸さん

―鶴丸さんにとってのものづくりとは。

【鶴丸】やはり喜んでくれるお客様がいらっしゃること、そしてパンツ屋として一番嬉しいのはリピーターですね。2本目、3本目を買ってくれることが答案用紙でいうところのはなまるを貰えたということなので、いつでもはなまるを貰えるような商品を作っていきたいと思います。

デニムについて色々ご教示いただき盛り上がる撮影陣。鶴丸さん、ありがとうございました。



今回深掘りした沢山のこだわりが詰まったcaquのデニムは以下からぜひご覧ください。

また、caquのデニムが出来上がるまでを取材した工場記事は以下からご覧ください! 工場取材記事

  • 有限会社タンデム

    有限会社タンデム

    「毎日食べても飽きの来ない白いご飯の様に、トレンドに左右されずいつまでも愛用頂ける商品」をコンセプトに掲げる国産デニムブランド「サキュウ」。日本人の女性にあった独自のパターンメイキングは「穿き易さ」と「美しいシルエット」を兼ね備えている。タンデムが考えるジーンズ本来の役割は白ごはん。同じトップス(おかず)は2日連続じゃイヤなのに、ジーンズ(白ごはん)は毎日穿いても抵抗がない。コーデを選ばないし、いいジーンズはさりげなく全体を引き立ててくれる。タンデムはこれからも、この先も、Made in 東北の職人技を詰め込み手間ひまかけた本当にいいジーンズを追求し続けてゆく。

Text & Photo:
田中駿介

CRAHUGの撮影兼販促担当。Nikon Z8を片手に風景やヒトの写真を撮りながら、珍しいヴィンテージウェアを探し歩くのが日課。

Date: 2024.08.09

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