「傘」の字の中には人が4人も入っている。昔の傘はそれほど大きかったのかと思ったけれどどうやら違うようです。「傘」の「人」の部分は傘の骨組みが簡略化されていってこうなったそう。漢字にも成り立ちがあるように傘づくりにも成り立ちがあります。今回は山梨県西桂町より槇田商店の槇田さんにお話をお聞きしてきました。

―創業何年ですか

【槇田】1866年です。時代で言うと江戸時代の末期ですね

―当時は何を作ることから始まったんですか

【槇田】創業時は糸の買い継ぎ商としてこの地域で流通していた絹織物を織るための絹の糸を扱っていました。糸のみの取り扱いから、ほどなくして絹の織物ものも扱うようになったそうです。主にその当時の着物や着物の羽織がメインですね。

槇田商店の槙田洋一さん

―今と昔で変わったことはありますか

槇田商店の看板。甲斐絹問屋の文字がある

【槇田】うちのモノづくりのスタートは20年前ほどでして、その前は自分たちの工場を持っていなかったんですよ。お客さんのとこで営業してもらってきた仕事を元にどういう織物を作るかっていう企画を立てて、その企画を地域の機屋さんに渡して織ってもらうっていう企画専門の‘‘テーブル機屋‘‘だったんですね。

テーブル機屋として問屋のような立ち位置だったんですけど、ある時お客様から「プリントじゃないんだけど織物で大きな柄を置きたい」と要望があったんですね。でもモノグラムのような連続した柄を織れる機械っていうのがこの辺ではあまり無くて、うちとしてもお客様からの要望があるから機屋さんに設備してもらってやろうかって言ったんですけど、結構な投資額だったので機屋さんもなかなか難しい。じゃあもう自分たちでやるしかないねって今の社長が考えて、20数年前にその設備を作りました。要はそれがうちの工場としてのモノづくりのスタートになったんですね。今まで企画屋さんだったのが、工場機能を持ったっていうところですね。

槇田商店のジャガード織機

―企画のプロフェッショナルがモノづくりを始めたということですね。 今まで服地を取り扱っていたのに、なぜ傘を作るようになったんですか?

倉庫にずらりと並ぶ創業からの織柄のアーカイブ。

【槇田】創業の頃から服地だけ織っていたわけではなくて、当時の洋服の裏地が日傘として使われたりとかはあったらしいです。和装から洋装の文化に変わっていに従って、うちのメインだった和服関係が衰退していってしまって。今まで作ってきた織生地をどうにか生かせないかって考えたときに、先代の僕の祖父が傘生地を作ろうと始めました。昭和29年ごろに今まで扱っていた服の裏地を傘生地に業態転換しました。

【槇田】この富士吉田という地域自体に傘を作る技術っていうのは元々あったみたいで、傘づくりもしていたそうです。なので業態転換すると同時に今までの絹からポリエステルやナイロンといった化学繊維が日本に流通し始めたので、それに置き換えて傘生地を作り始めていました。もちろん傘の生地なので水が漏れてはいけないので地域の傘づくりと技術も取り入れながら、サンプルだけ作るとかだと職人さんの手ももったいないから、自分達が織った生地を生地で納めるだけではなくて傘の製品にまで仕上げて納めるというところまでしていたそうですね。

裁断から組み立てまで職人の手作業で行われている

―織り生地の傘を他の傘比べた時の良さはどこにありますか?

【槇田】織りの良さっていうのはまず糸の色の種類自体は限られてしまうんですけど、その中で糸と糸を織り合わせることによって表現される奥深さとか、例えばシャンブレーなんかは先染めの織物じゃないと絶対表現できない柄なんですよね。特殊なプリントをすれば別かもしれないんですけど、本当にただ違う糸の色を一番単純な織り方をしているだけなんですが、視覚の効果で色が変化して見える。そういう色の奥深さとか色の変化っていうものが先染めの織物の傘の魅力だと思います。それに傘って服地のような平らな生地よりもきっかり光を乱反射しやすいんですよ。より色の変化とか奥深さが楽しめるので、それが僕らの先染めの織物から作る傘の良さじゃないかなとは思っています。

―最後になりますが 槇田商店でしかできない自慢の技術はありますか

【槇田】デザインを織りで表現する、しかもそれが傘の三角形が跨ぐような大きなデザインでも織れるっていうのがうちでしかできない技術だと思います。デザイン性の汎用性っていうのがうちの会社の売りのところになってきます。細かいデザインだけじゃないよっていう。それは日本だけじゃなくて世界で見ても、傘生地を専門でそういう織柄のデザインをやっているっていうのは多分うちだけじゃ無いかなと思います。

Text & Photo:
田副太一

CRAHUGの撮影・イベント担当。毎週火曜日に映画を見に行くのがライフワーク。写真は愛犬のハル。

Date: 2023.06.19

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