フォトグラファー枦木功が語る
フィルター越しのCRAHUG

皆さんは写真を撮るときにフィルターって使いますか?フィルターを使うと画面に映る景色が色づき、一瞬でフォトジェニックな写真に変わる。手軽に使える便利なツールですよね。ただ、ただそれだけ。誰にでも使うことのできるフィルターを使って撮った写真は、誰にでも撮れる写真でしかないのです。きれいではあるけれど、ありきたりで物足りない。人の感情を動かす写真を撮ることはできないのかもしれません。

「きれいな写真を撮ることは誰にでもできる。ただそれだけで終わらない写真を撮ることが僕の仕事。」そう語るのはファッション誌や今話題のブランドのルックを撮影をしている新進気鋭のフォトグラファー、枦木功さん。写真の美しさはもちろんのこと、物腰柔らかで人当たりの良い、そんな人柄も含め彼が世間を魅了している理由の一つではないでしょうか。

実はそんな枦木さんに第一回目の特集「CRAHUGって何?」の写真、FACTORY LISTの写真の撮影をお願いしました。枦木さんと同じようにカメラを構えて撮影しても、まったく違う写真が出来上がる。枦木さんの撮る写真からは彼にしか使えない、独自のフィルターの存在を強く感じます。今回のインタビューではフォトグラファーを目指すきっかけや、撮影を通じて感じたCRAHUGの商品の印象、工場出張に同行いただいた際の感想などを伺いました。枦木さんの魔法にかけられた風景、商品の写真もたくさん載せています。ぜひ、最後まで。

現場で一番最初にときめくのは自分でありたい。

ー枦木さんの経歴を簡単に教えてください。

【枦木】福岡出身で、幼稚園の頃からカメラをもって写真を撮っていました。高校生のころから絵を描き始め大学まで九州で過ごし、のちに東京に出てきました。それからはスタジオマンというフォトグラファーになるまでの王道のようなやり方で、師匠に師事して3年間くらいアシスタントをしたのちに、独立しています。

ー今の職業に就いたきっかけは何だったのでしょうか?

【枦木】もともとは映画をやっていました。映画のスタッフとして東京に出てきたのですが、不景気と若者によくある”こんなはずじゃなかった症候群”も手伝い、映画に希望を持てませんでした。それで好きな画が撮れるスチールを職業として選びました。

ーそのようなきっかけがあったのですね。写真を撮ることも一種のモノづくりだと思うのですが、撮影をしていて大切にしていることはありますか?

【枦木】新鮮さかな。その現場で一番最初にときめくのは自分でありたい、と思っていて。自分が一番いいと思った瞬間を撮って、そこから調整をするようにしています。最初から条件を設けることはせず、ときめいた瞬間から商品のバランスや見え方の調整をしていくことを心掛けています。

あとは画の強さ。商品が大切だからこそ、画がないと商品が成り立たないと思っているから…。

ー商品だけでなく、一枚の画像として?

【枦木】そう。商品もちゃんと風景になるように。そうでなければ切り抜きでいいよねって。僕を通すならそうでないものを撮るべきだと思っているので。いろんなフォトグラファーが自分のフィルターを通して撮影するから、多種多様の良いものが生まれる。そのうちの一つであって、僕が絶対ではないと思っています。

ーCRAHUGの商品を実際に撮影してみて、触れてみて、どのような印象を受けましたか?

【枦木】良い意味で”普通”だと感じました。良い意味というのは身近ということ。安いものではないけれど、こういうものが欲しいという憧れるモノなのに背伸びをしていないように感じて、心地よく生活が変わりそうだなと思う商品ばかりでした。今回の撮影ではその商品が憧れになりすぎないように、いいドキュメント性を持たせられるように意識して行いました。

僕は普段から買い物はあんまりしなくて、本当に今それが必要なのかを何度も確認してから買うようにしています。永く大切に使うことを意識して購入することが多いので、CRAHUGで扱っている商品達は、まさにそれを叶えてくれると思いました。心地よく変化をもたらしてくれそうな商品ばかりだと思います。

久しぶりにモノづくりの気持ちよさを身近に感じた。

ー8/4~8/5にかけて鹿児島と神戸に撮影に行かれた際の率直な感想をお願いします。

【枦木】本当に率直でいいんですか?(笑)とにかく暑かった(笑)けど久々にトリップで、気持ちよかったです。父親の実家が鹿児島ということもあり、久々に鹿児島に行けてよかったです。地方特有の土地のにおいがあるんですよ。潮と土のにおいが混じったような。目隠しをして連れていかれても、ここが鹿児島とわかるくらい(笑)

なんて冗談は置いておいて、今回の撮影ではモノづくりの気持ちよさを身近に感じられました。コロナ禍ということもあり、密着して撮影を行ったのもずいぶん久しぶりだったので。

ー特に印象に残っている風景、景色はありますか?

【枦木】鹿児島の滝が強く印象に残っています。梶原さんがきれいな水を撮りたいときっかけをくれたから。記録ではなく作品まで持ちあげていくにはどうしたらいいのかと考えていました。きれいな滝を撮るのは誰でもできるけど、そうではなく、きれいな水を伝えるにはどうしたらいいのだろうと試行錯誤しながら撮りましたね。

また神戸の工場も印象的でした。糸がとにかく綺麗で。僕もモノづくりの取材で沢山の織機工場に行かせてもらったけれど、こんなに糸が綺麗だと思ったのは初めてでした。デザイン性もありながら自然物のようにも見えるというか。そういう面で、とても印象的でした。暑さ以外で言うとこの二つです(笑)

ーモノづくりの現場を見て、ご自身の仕事との共通点はありましたか?

【枦木】分野の異なる企業同士で新しいものを作り出そうとしている場面に出会い、それは自分の仕事にも通じる部分であると感じました。フォトグラファー、モデル、ヘアメイク、スタイリスト、ディレクターなど多くの人が関り、一つの作品が出来上がる。撮影は一人では成り立ちません。それは企業間でのやり取りと一緒だと思います。使うメディアが違うだけで、結局良いものを創りたいとか、そういうゴールは同じなんだと感じました。

個人の作品づくりとは異なり、コマーシャルの撮影はチームワークが大切なんですよ。自分だけでなく、クライアントさんがいて、監督がいて、みんなの想いがあって。本当に球技のような感覚です。パスを出すにしても相手の取りやすいところに出すのではなく、相手の可能性にパスを出しあう。こういうチームワークは作品づくりでは味わえなくて、本当に楽しいです。

ーでは最後に。枦木さんの今後の展望、やってみたいことについて教えてください。

【枦木】需要を創る立場になりたいと思っています。フォトグラファーは受注を受けて仕事になるのですが、今の若い子たちの発信の仕方が良い意味でラフで軽くて、いいなと感銘を受けていて。自分達で需要を生める子がたくさんいる。その中で自分も何か発信できる立場でありたいと感じています。

ー具体的に想像しているアウトプットはありますか?

【枦木】YOUTUBEやれって言われたら困るんだけど(笑)具体的にはまだ決まっていませんが、その土地の人たちの知らない風景を提案していきたいです。「こんなにステキな面があるんですよ。」と僕の写真を通じて知っていただきたいなと思います。

枦木さんにインタビューを行ったのは8月上旬。写真を見ているとその日が昨日のことのように鮮明に思い出されます。うだるような暑い日。雲一つない空。盛んに鳴くセミの声。うっそうと生い茂る木々。爽やかな制汗剤の香り。枦木さんの撮る写真は視覚だけではなく、五感と結びついているのだと、このインタビュー記事を執筆していて気づかされました。

Text & Photo:
宮﨑涼司

人一倍、服が好きなCRAHUGのジャーナル担当。給料のほとんどをファッションへ投資する。好きなメディアは「AWW MAGAZINE」と「NEUT MAGAZINE」。

Date: 2021.10.01

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