【梶原加奈子の想いごと対談】
鞄創造で人生を豊かに。
Atelier nuuの心を探る。
豊岡の自然風景
―受け継いできた豊岡鞄の歴史―
梶原:Atelier nuuを運営している株式会社アートフィアー取締役本部長の森下拓磨さんとブランドの歴史や魅力をお話していきたいと思います。まず、Atelier nuuの製品は兵庫県にある豊岡産地で作られています。豊岡の鞄産業の歴史を伺えますか?
森下さん:鞄とのつながりは1000年ほど前まで遡ります。当時、古事記にも登場する行李柳(コリヤナギ)という植物がこの土地に自生していました。これをもとに籠を作り、後に鞄の産地へと発展しました。ここで作られた鞄は豊岡の円山川を通って運ばれ、全国へと鞄のビジネスに繋がっていきました。
株式会社アートフィアー取締役本部長の森下拓磨さん
梶原:豊岡の鞄作りの背景には豊かな自然があったんですね。 「豊岡鞄」という名前で定着していますが、どのようにして産地全体の活動が今のようなブランド力を築いたのでしょうか?
森下さん:籠の生産から革や布を使った鞄の生産地へと変わりましたが、パリ万博に出展した時にその技術が認められ、バブル以前までは国内の鞄の生産量のうち7、8割を豊岡で生産するまでになりました。しかし2000年代になると、賃金が安価な国へ製造移転が進み、豊岡は産地として衰退の危機に瀕しました。
産地の各工場が危機を脱却するために話し合い、2006年に力を合わせて立ち上げたのが「豊岡鞄」という地域ブランドです。豊岡の名を守ろうということで、今治タオルのように品質を保証する「豊岡鞄」という商標を取りました。
豊岡の縫製工場
―Atelier nuuの成り立ちと拡大のきっかけ―
梶原:Atelier nuuを立ち上げた経緯を伺えますか?
森下さん:Atelier nuuより先にARTPHEREというメンズブランドから自社ブランドを始めました。 「ART」と「ATOMOSPHERE(雰囲気)」を合わせてネームを考え、会社名にもなっています。最初に企画したバッグのデザインは、開口部が口枠式で大きく開き、側面が山型のフォルムをしているダレスバッグを参考にしました。これはもともとビジネスマンが使う堅実な鞄ですが、「ペインターズバッグ」の要素も検討し、画家が絵の具やキャンパスを入れて使うような立体感やサイズ感を研究しました。
森下さん:Atelier nuuは、その背景で、レディース向けの企画として2008年から立ち上がっていました。当時の豊岡には、地元で鞄を購入できる場所がほとんどなかったんです。それで、地元の人や観光客が直接鞄を買えるお店を作ろうと思ったのが始まりでした。ブランド名の「nuu」は「縫う」という意味で、手仕事の温かみを大切にしたいという思いを込めています。
2009年にiF Design Awardという賞をカバンで初めて受賞し、国内外で販売していたARTPHEREは順調に成長していたのですが、コロナをきっかけに売り上げが下がってしまって。工場もOEM受注の仕事が止まり、「自分たちで好きなように動けるようにプライベートブランドを伸ばしていかないと」と危機感を持ちました。
それで、「nuuも行くぞ!」となりました。
豊岡の直営店 Atelier nuu
縫製中の写真
―修理ができる鞄作り―
梶原:Atelier nuuも産地の直営店から飛び出し、販売の強化が始まったのですね。関わっている皆さんが、コロナに負けず立ち上がっていく様子が思い浮かびました。さらに、皆さんは修理に力を入れていると伺っています。どんなこだわりがありますか?
森下さん:Atelier nuuを運営するARTPHEREという会社は「鞄創造により、人生を豊かにする」というコンセプトを軸にして運営しています。イベントごとなど ”ハレ” の日に使う鞄、というよりは日常的に使っていただける”ケ”の日の鞄として長く愛用していただけるように、修理ができることを前提にした設計からこだわっています。
OEM販売の数量も合わせると、毎月4〜500本ほど修理に対応しています。 かなり数が多いので鞄修理のスペシャリスト4人で回しています。修理の経験を積み重ねてきたため、壊れやすい場所のポイントに気が付く機会も多く、新製品の改善や設計にも役立っています。修理をするからこそ、壊れにくい鞄を生み出す企画力に繋がっています。
豊岡の縫製工場
―Atelier nuuのデザインと戦略―
梶原:森下さんはAtelier nuuの成長戦略に向けて、どのように考えてきたのでしょうか?
森下さん:百貨店で販売するレディースとなるとあまりにも競争が激しくて、新製品を次々と出していくような進め方はAtelier nuuの戦略としては合わないなと思いました。そこを逆手にとって「ここでしか買えない」「これしか作らない」と限定で打ち出しやすいECと直営店に絞って販売していてきました。SNS広告を使ってPRを続けています。
梶原:定番の形を丁寧に作り、高品質なクオリティをリーズナブルに提供している印象です。Atelier nuuのデザインはどのように追求していますか?
森下さん:かなり地道なことをやっていますね。電車に乗っているとき他の人はどんな情報をキャッチしてるんだろう、と観察したり、百貨店とモールの入り口に立ってそれぞれがどういう客層なのかを1日立って見てみたり。そこから「こういう人に使ってもらいたいな」と思うお客さんの像を描きました。
梶原:すごいリアルマーケティングですね!
森下さん:そうですね、接客からもヒントを得られることはたくさんあります。僕自身も実店舗に立って、お店に来てくださるお客様に「なんで買わないの?」「どこがよかったら買う?」と、井戸端会議的に接客したりして。そこから企画につながるものが見つかったりしますね。
梶原:お客様と話すことが企画やデザインにつながっているんですね。
森下さん:僕は、お客さんとのコミュニケーションの量が結果に比例すると思っています。なので企画の人間も販売の経験をきちんと積んでから企画に回るようにしています。
Atelier nuuの直営店
豊岡の自然風景
―地方ならではの戦略―
森下さん:豊岡は地方なので百貨店やPOP UPを開こうとしても都心部にいくハードルが高いです。スタッフ1人に全てを任せて行かせるわけにもいかないし宿泊代もかかります。その点ECは場所が関係ないので移動にかかる費用などを抑えて都心部のブランドとも同じ土俵に立って販売できます。商品の撮影、レタッチ、モデル、インスタライブ、全部自分たちでやっています。意外とやってみたらできるものですね。
梶原:少人数、マルチタスクで関わる人たちが成長していますね。その上で、企画する人たちのモチベーションを保ち続けていくことが大事だと思います。どのような事を工夫していますか?
森下さん:やはりビジネスの中で売上のことはどうしても切り離せないので数字への意識が薄れないように、毎朝全員で会議をしています。企画を考える時間はみんな結構テンションが上がるんですけどそれで売れなくては続いてはいかない。
一方で、挑戦をしていく社風があります。親会社の社長と知り合って間もない頃に「伝統ってなんですか」と聞いたところ、「変化を厭わないこと」という答えが返ってきたんです。
すごく予想外でしたが「あ、この会社は変化していいんだな」と思ったことが自由な発想に繋がっています。
梶原:全員で目標とする数字を話しながら、挑戦を続けていく事が、切磋琢磨する日々の努力を後押ししているようですね。
―CRAHUGとの関わり、これから―
梶原:CRAHUGからお声掛けさせて頂きましたが、その際はどのような心境でしたか?
森下さん:最初はOEMの話かと思いました。オンワードさんでは”オンワード”という信頼感で、顧客と長い年月をかけて関係性が続いていますよね。そのオンワードさんがファクトリーブランドに目を向けプラットフォームを作るという話で、すごく可能性を感じました。社員にも年代的にちょうどオンワードさんをよく見ている人が多く、息が長いし僕らの生きる道なんではないか、と思いました。「成功するかしないかはわからないけど可能性があるならとりあえずやってみよう」となりましたね。
梶原:参加当初からAtelier nuuの鞄はとても人気があり、途切れることなく購入されています。CRAHUGとの協業で今後の期待や展望などありますか?
森下さん:今後はリアルイベントを開催してもらえるといいなと思っています。CRAHUGさんがPOP UPなどをやる際にはぜひ参加したいです。鞄はやはり日常的に使ってもらいたいので実際に触れて、見てもらったりしてサイズ感や重さなどをリアルで感じた上でECも活用してもらうのがいいかなと思っています。
梶原:私はAtelier nuuの財布が気になっています。シンプルだけどアクセントがあるデザインがとても好きで、ブランドのオリジナリティを感じていました。本日お話しを伺う前は、財布から始まったブランドなのかな?と思っていました。すごく使いやすそうなデザインでカラーが印象に残ります。
森下さん:今は財布に特に力を入れているのでそう言ってもらえるのはありがたいですね。 Atelier nuuの鞄ではなく財布から購入したとしても、質の高さを感じて頂けたら鞄にも興味を持ってもらえると思っています。財布は皮を薄く漉く工程など鞄作りとの違いもあるため、最初は縫製が難しかったのですが、今ではAtelier nuuの中心商品となりました。財布は買い替える人も多いので手に取って頂きやすいです
noble 二つ折れウォレットのカラフルな配色 noble 二つ折れウォレットの中側
梶原:今回の対談では、豊岡産地の歴史やAtelier nuuを作っている人たちの想いを伺うことが出来ました。ヒトがいるところにモノが宿ると思います。いつも拝見していた商品ですが、特に修理を丁寧に続けていることを深く知り、また新たな魅力に気が付くことが出来ました。
森下さんが、もっと多くの人にAtelier nuuの使いやすさや丈夫さ、さらに修理が出来る安心感も知ってもらい、こだわりの鞄や財布を持つことで日常が豊かになってもらえれば。 と話していた想いに共感します。
CRAHUGからも豊岡産地の未来を支える商品として多くのお客様のもとに届けていきたいと思います。
対談ありがとうございました。