【梶原加奈子の想いごと対談】
三重産地の環境が生み出す
KWDの安全で高品質な羽毛製品

河田フェザーの羽毛精製工場の西方に広がる大台ヶ原山地

創業から130年以上の歴史があり、日本では数社しかない羽毛を洗い綺麗にする精製メーカー、河田フェザー株式会社。名古屋で創業した後、安全で高品質な最高の羽毛を目指し、「水」と「乾燥した風土」のより良い環境を求めて、1991年、三重県多気郡明和町に工場を移設しました。その後、世界でもトップクラスの精製技術で作った羽毛原料を直接お客様へお届けするため、ダウンウエアブランド「KWD(ケーダブルディー)」を立ち上げ、羽毛1点1点のクオリティーに責任を持ち、国内工場で丁寧に縫製しています。

今回の対談では、河田フェザー株式会社のKWD営業を担当している藤井貴久さん、 KWD のブランディングと商品企画を担当する株式会社MILKBOTTLE SHAKERSの寺崎美緒さんにお話を伺います。

風を利用してダウンとフェザーを選別する「選別機」

羽根製品からはじまった河田フェザー

梶原:河田フェザーさんのことを「Green Down Project」(※) のサステナブル活動を通して以前から知っておりました。まずは河田フェザーさんの歴史を教えて頂きたいです。

※「Green Down Project」は、「羽毛はリサイクルできる」ということを社会に知ってもらう目的で、2015年4月3日に発足しました。羽毛を循環させることが、社会貢献や環境保護につながるプロジェクトです。https://www.gdp.or.jp/

藤井さん(河田フェザー) :弊社は1891年、羽根製品を取り扱う河田商店として、創業したのが始まりです。その後1963年頃までは、今取り扱っているダウンというものではなくて、羽根(フェザー)を使用した装飾品を取り扱っていました。帽子の羽飾りや舞台衣装、成人式のショールとか、最近見ないですけど、車の清掃に使う、毛叩き、羽根つきペン、神社の破魔矢(はまや)などがありました。その後、1977年に羽毛原料の処理とタウンユースのダウンジャケットの生産を開始しました。

梶原:世の中には色々な羽根製品がありますね。ダウンジャケットに発展したのは何故ですか?

藤井さん(河田フェザー) :ちょうどその頃、国内でタウンユースのダウンジャケットのブームがあり、当社でもダウンジャケットを作り始め、同時に羽毛布団も大きく生産が伸び始めた頃でして、次第に羽根の装飾品から羽毛製品へとビジネスが移り変わっていきました。

大台ヶ原などが水源の地下水を羽毛洗浄に使用

徹底した羽毛洗浄のため、超軟水と乾燥した風土を追い求めて

藤井さん(河田フェザー) :羽毛処理の技術が発展した過程で、大きな転機となったのが創業100年目にあたる1991年です。もともと名古屋に工場を構えていたのですが、羽毛をより最適に洗浄できる環境を求めて、名古屋から現在の工場がある三重県の明和町に工場を移設しました。

梶原:どういう基準で移設場所を選んだのですか?

藤井さん(河田フェザー) :社長の河田敏勝が地形・地質・雨量などあらゆるデータをもとに、羽毛精製に最適な土地を探し出しました。羽毛洗浄するためには、沢山の水を使いますので、大量の地下水が豊富にある環境が条件でした。また除塵(じょじん)といって羽毛の塵や埃を取り除く作業があるのですが、乾燥している土地で洗浄すると、よりしっかりと羽根の根元まで開き、ゴミが取れやすくなります。そのため、水が潤沢にあって、乾燥している土地という基準で各地を探した結果、今の三重県の明和町に決まりました。

三重県に移ってから羽毛洗浄してみたところ、地下水が超軟水で飲み水としても使用しているような滑らかな水質なので、石鹸や洗剤が少なくても最後までしっかり洗うことができました。伊勢平野は名古屋よりも乾燥した地域なので、羽毛の羽枝から広がる小羽枝(しょううし)と言われる細かい枝軸が開いた状態で精製することができます。

社長の河田は羽毛の特徴や羽毛の構造をすごく理解していましたので、独自の理論に基づいた洗浄の機械を設計し、移設当初から世界でもトップクラスの除塵、洗浄力を誇る機械を作りました。

梶原:ここでしか出来ない環境と機械と技術があるからこそ、河田フェザーさんの羽毛は赤ちゃんやアレルギーの方にも安全な羽毛を提供できるのですね。

藤井さん(河田フェザー) :そうですね。”品質の河田”として、今も当時と変わらず、自社に専門のメンテナンスメンバーも常におります。これまでのノウハウと機械もアップデートして、より綺麗にできるようにと、日々取り組んでいます。

羽毛洗浄のために独自設計された専用の「洗濯機」

ピンセットを使い、羽毛の混合率を検査しているところ

自社ブランド「KWD (ケーダブルディー)」のはじまり

梶原:「KWD」 が立ち上がった時のことを伺えたらと思います。

寺崎さん(MILKBOTTLE SHAKERS) :使用済みダウン製品回収の活動「Green Down Project」の立ち上げに、河田フェザーさんと弊社ミルクボトルシェイカーズの喜多が関わっており、その出会いからきっかけが生まれました。河田社長と話している中で、羽毛の良さをもっと一般消費者にも知ってもらいたい、商品として届けたいという想いを伺い、弊社がサポートする形で河田フェザーさんの製品プロジェクト「KWD」が立ち上がりました。

藤井さん(河田フェザー) :今まで河田フェザーとしては、布団寝装業界のお客様やアパレル業界のお客様に羽毛を提供する形でお取引をさせて頂き、どちらかというと黒子でした。でも、新たなB to Cの販路を構築していくために全社を挙げて工場、生産、営業部門のスタッフが関わり、動き出しました。

ダウン製品の中身の安全性、軽量感、透明性を表現したKWDのイメージ写真

ダウンの中身を伝えることで「透明性」がある製品となる

梶原:ブランド名は会社名が活かされているのかなと思いますが、ブランドコンセプトなど伺いたいと思います。

藤井さん(河田フェザー) :ブランド名は河田という名前から、シンプルにわかりやすく「KWD」となりました。ブランド名のKWDはKAWADAのAを3つ除いた頭文字になっているのですが、AAA=最高品質を意味することから、KWDロゴの「W」にAAAを逆さにしたモチーフを落とし込んでいます。コンセプトとしては、まず「高品質でしっかりと洗浄した羽毛」です。 やはり弊社が羽毛製品の品質にこだわってきた中で、消費者のお客様にとってダウン製品は身近な存在だと思うのですけども、羽毛を見る機会や中身に触れる機会は少なく、品質や羽毛の知識を持たれている方も非常に少ない状況かと思います。世の中には低品質な羽毛も出回っている中で、品質の良い羽毛、ダウン製品の中身の違いをもっと知って頂きたいと思いました。

梶原:今回の対談を通して私も羽毛までの知識が足りていなかったことに気が付きました。

藤井さん(河田フェザー) :プロダクトになった時に羽毛は見えない存在ではあるのですが、安全で高機能というところを感じて頂きたいという考えで「透明性」 という言葉を通してKWDのブランドコンセプトを伝えています。

梶原:お話しを伺ってから、改めて「透明性」を表現するブランドのヴィジュアル写真を拝見すると、ブランド軸のイメージがよく理解できました。KWDを立ち上げて良かったことがありますか?

藤井さん(河田フェザー) :ポップアップなどお客様と直接お会いしてお話する機会が増えました。羽毛にあまり興味を持たれてなかった方にも、羽毛がリサイクル出来るということも含めて理解頂き、KWDの品質の良さに興味を持って頂く機会に繋がっています。また、廃棄ダウン製品の回収率が増えてきたので、それを再度 KWDの製品に循環していける一貫生産の仕組みも構築できました。

ヨーロッパなど世界各地から仕入れた良質な羽毛原料の保管倉庫

羽毛の良さを実感できる日本製の製品

梶原:製品としては、どのような点にこだわっていますか?

寺崎さん(MILKBOTTLE SHAKERS) :最初は羽毛の良さを体感できるプロダクトを打ち出そうということで、四角いブランケットのようなものを企画しました。その次に羽毛を体感できるものを開発したいということになり、初年度はダウンケットやショールにして販売開始しました。 展示会に出て様々な人と出会っていく中で、お客様とのタッチポイントを増やしていきたいね、となり、2023年度からウェアのラインナップを少しずつ増やし始めていきました。

梶原:製品アイテムごとに得意とするデザイナーさんとコラボレーションをしてデザインを追求していると伺いました。プロダクトの専門的な知識を活かしたこだわりですね。

寺崎さん(MILKBOTTLE SHAKERS) :そうですね。企画では、これまで3名のデザイナーさんに関わって頂きました。例えばベビーやキッズの企画経験があることや、実際にお子さんを育てられている経験があるなど、実体験をプロダクトに落とし込めるような専門性に特化したデザイナーさんにお願いをしています。

羽毛原料メーカーならではのこだわりのアイデアを河田フェザーさんから伺いながら、プロダクト企画を進行しています。羽毛についての知識が深まり、私たちにとってもすごく勉強になることがあります。例えば普通ダウンジャケットのポケットの蓋部分には中綿が入っていることが多いですが、羽毛でボリュームを出してみようという発想は、私たちではなかなか気づけない部分でもあります。

梶原:製品についてお客様からはどのような声が多いですか?

藤井さん(河田フェザー) :商品を手に取ることやご試着を頂くと、やはり軽いというご意見を頂きます。結構膨らみがあるので、一見重たそうに見える商品もありますが、実際に手に取ってみるととても軽いです。日本産でこのクオリティで、これだけ暖かく軽くてこの値段は安いねって言ってもらうことも多くあります。

接客を通して気が付きましたが、お客様が求めているものは「もの」自体ではなくて、その先に得られる「こと」が大事なのではないかと思います。例えば羽毛布団が欲しいというよりは、羽毛布団を使って良質な睡眠、価値をお客様は求められていると思うのです。 軽いし、暖かいし、膨らみもあり、匂いが少ないといった、KWDの機能性から、快適な暮らしにお役に立てる商品を提供していきたいです。

使用済み羽毛製品の山。年間約100tほど羽毛を回収しリサイクルする

河田フェザーの洗浄技術で羽毛は100年使える循環資源

梶原:サステナビリティに関してもお聞きしたいのですが、現在全ての商品に「リサイクルダウン」を使っているのですか?

藤井さん(河田フェザー) :これまでの商品はすべて「リサイクルダウン」を使っていますが、今回新たに「JAPAN UMOU COLLECTION」(※) として国産の羽毛を取り扱い国内縫製をする企画も始めました。現在は全てが国内で完結する「JAPAN UMOU COLLECTION」と「リサイクルダウン」の二軸展開となります。

(※) 「JAPAN UMOU COLLECTION」では、「Japan Duck(ジャパンダック)」と呼ばれる国産ダックダウンを使用しています。羽毛の飼育から製品化まで、すべての工程が適正な品質管理のもと日本国内で行われている、信頼と安心を提供するダウンプロダクトのコレクションです。

梶原:羽毛は、自然に還る素材だと思いますが、循環性について考えていることがありますか?

藤井さん(河田フェザー) :弊社の機械で羽毛をしっかりと洗浄することで、100年以上は使える資源になると言われています。やはり使っていくと、どうしてもクタっとしてくるんですが、しっかりとした工程で再び洗うことで完全に膨らみ感が戻りますので、長く使って頂けるものになります。

KWDのこれからに向けて

梶原:最後に、今後の KWD の動きや販売予定の商品を教えて頂きたいです。

藤井さん(河田フェザー) :今まで定番のユニセックス向けの商品を展開してきましたが、新たにメンズ向けのボックスダウンジャケットと、レディース向けのミドルダウンジャケットを展開しています。さらに少し軽めのダウンシャツを今期から取り入れました。今後は表層もリサイクル素材にすることや少しグレードアップしたような商品作りも検討中です。

寺崎さん(MILKBOTTLE SHAKERS) :KWDはダウンに特化しているのでアウターは重衣料のカテゴリーになるため、トータルコーディネートがシーズンではなかなかできないのが課題です。例えば様々なAW商品を持っているCRAHUGさんに参加しているブランドの皆様のAW商品が一挙に見ることができる受注会のようなものが出来ると嬉しいです。シーズンのちょっと手前のタイミングできると、相乗効果があったりするのかなと思います。

梶原:ウェブ上で先出し特集を発信することや、CRAHUG参加ブランドと組み合わせてコーディネートを発信することに力を入れていければと思います。リアルでも取り組みを考えていきたいですね。

今回の対談を通して、KWDがこだわる「透明性」の意味を深く知ることが出来ました。 こだわりを持ち続けている工場の人たちの想いと、さらに日本の自然環境があるからこそ、安心安全な循環ダウンが使い続けられるというお話しに大変感銘しました。やはり日本のモノづくりは凄い!と誇れる背景があります。

また、社員の皆さんも自社ブランド運営によって新たな側面を経験し、生き生きと未来に進んでいる様子が感じられます。これからの商品や活動にも注目していきたいです。

ダウンに対して実直な対応を継続することで、唯一無二の商品を作り出しているKWDの特徴をこれから益々多くの方に伝わっていくように、CRAHUGも協力して発信していきたいです。

色々なお話を沢山お聞かせいただき、大変ありがとうございました。

  • 河田フェザー株式会社

    河田フェザー株式会社

    羽毛業界では「品質の河田」と認識され、羽毛に関してはグローバルリーダーとして国際的な羽毛産業の発展及び国内マーケットの創造と成長に貢献し続けています。「河田の独自技術・水・気候」全てが揃うことで実現可能な、世界で最も高品質かつキレイな羽毛をお届けしています。

Text & Photo:
梶原加奈子

CRAHUGのクリエイティブディレクター。大好きなテキスタイルに関われる日々に感謝。北海道の自然がクリエーションの源。

Date: 2024.12.13

CRAHUG編集部・おすすめの記事はこちらです

RECOMMEND