【梶原加奈子の想いごと対談】
大阪泉大津産地の毛布ブランド
LOOM&SPOOLの世界
毛布の産地・大阪府の泉大津で日常に溶け込めるライフスタイル製品の提案を目指し、綿毛布から「LOOM&SPOOL」を立ち上げたデザイナーの廣瀬さんに、ブランドの成り立ちとモノづくりへの想いを語っていただきました。
LOOM&SPOOLの原点
梶原:廣瀬さんは前職も含めて今まで製品企画を多く経験されているので日本の工場さんとの繋がりも多岐に渡りますね。以前の仕事で経験してきたことや、どのように自社ブランドを立ち上げたのか伺えたらと思います。
廣瀬さん:以前は大きなブランドやキャラクターなど、ライセンス関係の商品企画に携わっていました。私の役割は、ブランドを運営する企業とメーカーとの間で要望や技術を調整しながら企画にして提案するという立場でしたが、色々な課題を感じていました。例えば泉大津に天然素材の上質な綿毛布があるのに、色はピンクとブルーしかないとか、いい素材があってもデザインがクラシックな花柄が多くて、もっと素材の良さが伝わるシンプルなデザインがあれば消費者が求める毛布のニーズと合うのではないかと思ったのが、ブランドを立ち上げるきっかけになりました。
梶原:工場と消費者の考えを理解し、架け橋となるデザインを生み出すために行動したのですね。近年、日本の繊維産地が苦境に直面していますが、綿毛布を生産できる泉大津産地のことが気になります。是非、どのような特徴があるのか教えてください。
日本生産量一位の毛布づくり、泉大津産地の歴史

毛布の起毛加工の工程を見守る廣瀬さん
廣瀬さん:元々は、泉佐野市など南の方で綿花の栽培が盛んだったこともあって、泉州タオルなどが有名です。そのタオルを作る過程で余った綿で戦時中から毛布を作っていたというのが始まりだったそうです。戦後の高度成長期に国産の綿毛布が広く知られるようになりましたが、まもなくして中国生産が始まったことで、綿毛がボロボロ抜けるような綿毛布の粗悪品が多く出回ってしまったとのことです。残念なことにそのイメージが影響し、日本製の綿毛布の評判が一気に落ちて生産が激減しました。そのため、今では綿毛布を知らない若い世代の人も多いと思います。現在は、中国製はポリエステル、泉大津で作られる日本製はアクリル毛布が主流となっていきました。

左:ニューマイヤー毛布のカットパイルをチェックする職人 // 右:人の手で丁寧に準備される織機に糸を通す工程
梶原:日本製の綿毛布の品質は高かったのに、浸透しなかったのは残念ですね。 このような良い技術を知っていた廣瀬さんが、貴重な綿毛布と向き合ってブランドを立ち上げたことで、まだ次世代に繋がる可能性が広がったと思います。 LOOM&SPOOLを立ち上げた際は、この毛布から企画したのでしょうか?
廣瀬さん:はい、毛布1本から立ち上げました。企画当初は織物での表現を考えましたが、取り組んできた工場さんしか出来ない大きなパネルプリントの技術でグラデーションを表現したいと思いました。
梶原:大胆なグラデーション柄が本当に素敵で魅了されます。まるで手で染めたような繊細な色合いです。
廣瀬さん:最初にどんなデザインにするか考えた時、誰にでも使ってもらえる柄を目指したいと思いました。元々は水墨画タッチというか、 和のテイストを意識していました。でも毛布の特性上、濃色ができなかったので中間色で絞り染め風にしたいと思い、段々と、ふわっとした柔らかい色になっていきました。サンプルでやってみて出来あがった色合いを見て素敵だなと思いました。
梶原:すごく素敵ですよね!私が最初にLOOM&SPOOLさんを知ったのは、この1枚の毛布の写真をインスタで拝見したことがきっかけでした。優しいグラデーションがブランドのアイコンになっていると思います。とても気になりました。 それから、どのような商品開発に発展したのでしょうか?
メリノウールで「ニューマイヤー」毛布の開発
廣瀬さん:次にメリノウールの毛布を企画しました。取り組み先の工場さんがウールでリアルなファーができると思って作ったそうです。「ニューマイヤー」という安く大量に作れる編機で、あえてウールの高価な糸を使ったんです。 私がこの素材を知った頃はまだ製品化されていなくて、開発中だったので、市場で販売できるようになったのはブランド立ち上げから1年後でした。
梶原:ずっと昔からありそうで、今までなかった画期的な商品ですね。ふわふわ具合は本物のヒツジさんの毛のよう癒されます。
廣瀬さん:そうなんです。本当に軽いし、温かいです。ムートンだと洗えませんが、防縮加工のウールなので洗濯可能ですし、羊の毛を刈った毛で編んでいるので、毛皮らしくはありつつ、その生々しさがないです。

使い始めた日と名前を記入できるオリジナルネーム
作り手と使い手双方の喜びが込められたブランド名
梶原:ブランド名の「LOOM&SPOOL」ですが、なんとなく名前から部屋の雰囲気を想像できるのですが、どういう意味合いでブランド名をつけたんでしょうか?
廣瀬さん:梶原さんのように、LOOM&SPOOLの「ルーム」の発音から、正に「部屋」を思い起こして下さる方がとても多いんですが、実は「ルーム」は「機織り機」なのです。そして「スプール」は「糸巻き」という意味で、「機織り機」と「糸巻き」の両方ないと、ものが作れないという意味合いを込めてブランド名をつけました。 ものづくりは「売り手」と「買い手」の両方がないと成り立たないし、「作り手」と「使い手」も両方ないと成り立たない。どちらか片方だけでは成り立たない、両方のバランスが必要で常に対になっている、ものづくりはお互いを尊重し合って出来上がっているという考えを込めさせてもらいました。
梶原:優しい音の響きが重なって居心地の良い世界観が広がります。2つのワードが繋がることで、モノづくりが一方向だけではないという廣瀬さんの想いも込められていますね。 私はブランド立ち上げの最初の頃から注目して見ていましたが、クラウドファンディングや展示会、POPUPにチャレンジして、どんどん人気が高まっていますね! 初期からグラフィックや写真がとても素敵でした。グラフィックデザイナーの旦那様の サポートが影響していますか?

モダンなデザインを意識したカタログと空間スタイリング
廣瀬さん:そうです。彼は元々パッケージやWebなどのビジュアルデザインの仕事をしていたので、立ち上げ時からアートディレクターとして関わっています。自分たちの初めてのブランドなのでデザインについては自由に内容を決めていくことにしています。
梶原:商品と雰囲気がピッタリです。名コンビですね。 ブランド立ち上げに必要な要素が揃っていて、安定感を感じます。毎回のスタイリングも素敵で写真を見るのが楽しみの1つです。
常に工夫し素材を活かし、使い切る
梶原:サステナブルに関しては、何か意識をされていることはありますか?
廣瀬さん:毛布って一部が汚れちゃうと商品にならないので捨てることになりやすいんですが それを廃棄しないで再活用しようと思い、小さな商品を考えました。毛布で温めることに特化した商品がいいなと思って、まずは湯たんぽカバーを作り、次にアイピローやマフラーを企画しました。
梶原:モコモコした形が可愛いし、部分的に温めてくれる機能性もありますね。
廣瀬さん:若い人達がおじいちゃん、おばあちゃんにギフト向けや、自分用のご褒美としても購入してくれたりします。工場には小さな商品を毛布販売の閑散期に作ってもらっていて、納期もいつまでに欲しいという言い方ではなくて、この生地が余ったから閑散期で良いので作って下さいと頼んでおくと、気がついたら出来上がってきて販売するという流れになっています。
梶原:廃棄前の素材を活用したスリッパも人気商品だと伺いました。
廣瀬さん:はい。スリッパは全部端材から作っています。この間は播州織の西脇市へ行った時に、機屋さんで中途半端に糸が残っていて、例えば、赤が 6キロ、黄色が8キロ、白が12キロ、青が20キロとか。糸の材料がバラバラですけど、数学みたいに配分や計算をして、 綺麗に全て使えるように組み合わせをすごく考えました。
梶原:それでオリジナルのチェック柄を作ったのですね。カラフルで可愛いですね!
廣瀬さん:そうです。ワッフルのスリッパも、工場に中途半端に残っているタテ糸があって、それで無地のワッフル生地を作りました。私はこんな風に制限があった方が楽しいんです。そしてそれがモノづくりのストーリーになったりもするので。
梶原:ただ作るだけではなく、眠っている素材をどう活かすかという視点をいつも持っていて、工場さんにとって有難い考え方ですね。

播州織の機屋さんと協力し残布を使い切るよう工夫を重ねたテキスタイルデザイン
ものづくりが継続するために通訳者となる
梶原:廣瀬さんが作り手の方々と向き合い、丁寧に仕事をするその背景には、産地活性化や技術が伝承して欲しいという想いもあったのではないかと思いますが、いかがですか?
廣瀬さん:そういう想いもあります。工場さんのお話を聞いていると、昔みたいに何かを作ったら儲かるという状況ではないので、広い工場の敷地をマンションや住宅地にしてしまう状況をよく聞きます。時代の流れで仕方ないと思う部分もありますが、それでも工場さんの中には、2代目、3代目と続いてきて親や前任者がやってきた技術を埋もらせてしまうのはもったいない、自分たちの世代でも出来ることがあるかもしれないと考えて動いている方も結構多いので、そういう工場に対して、私たちができることがあればサポートして力になりたいとすごく感じています。

毛布工場で企画の相談、プリントの型起こしや縫製工場さんとの打ち合わせをする廣瀬さん(左奥)
梶原:CRAHUGも工場や技術が継続していくために、製品販売にチャレンジしたいと思う人たちをサポートしていきたいと考えて始まったプロジェクトなので、廣瀬さんもCRAHUGと考えは同じですね。
廣瀬さん:そうですね、「作り手」と「使い手」など対になる両方のバランスも大切なのですが、私自身がいつも仕事をしている中で、自分を通訳者だと思っているんです。企業と工場の両方の要望を聞いて作っていくというか。そういう役割が自分のモノづくりなのかもしれません。
梶原:私は元々LOOM&SPOOLさんのファンで、自宅でもコットンブランケット、スリッパ、アイピローを実際に使っています。今回、初めて対談ができて新しく知ったこともあり、廣瀬さんの考えに共感できることが沢山ありました。モノづくりをする人の心の在り処を知ると、家で使っている商品への愛着も一層深まりますね。
今回の対談を通して、そんな気持ちが、LOOM&SPOOLのお客様にも届くといいなと思います。素敵なお話しを伺うことができました。ありがとうございました。

日常の風景に気持ちよく溶け込む、環境にも人にも優しい素材のブランケット