【梶原加奈子の想いごと】
100%の基準よりも、
心が豊かになる色合いについて惹かれる日々。
古代の日本から伝わる伝統的な草木染め。サステナブルの観点から、再び注目されています。
でも、身近で目にする機会は少ないのではないでしょうか?
私は通っていた美術大学のテキスタイル科の課題で、初めて草木染めを体験しました。草木で染めた布は、限られた色しか出ませんが、柔らかな色合いがとても魅力的でした。北海道の自然の中で育った私としては、自然の香りがするような色合いに、どこか懐かしさや安心感を感じた覚えがあります。
化学染料の色素は細かく均一なので光の反射が平面的に見えるのに対し、植物から抽出した色は、さまざまな色、形、大きさの色素が含まれているため光もさまざまに反射します。光の角度によって色合いが違って見えたり、化学染料では出せない深みを感じたりするので、自然の風景と同じように色を感じられるのだと思います。
自然と共に、生きていく。
このように自然な色合いを出すことが出来ますが、社会人となって向き合った草木染めの存在は、色落ちしやすいことや耐光堅牢度が弱いこと、そして色の再現性のコントロールが難しいこともあり、染色方法としては選択されにくい存在でした。プロダクトは同じように均一でなければならず、変化しない色合いが基準として求められました。
でも、環境持続の教育が基盤となり、近年の社会や人々の心理が変化してきたように感じます。環境負荷がないモノづくりが求められる中で、土に還るもの、環境汚染しないものとして草木染めが注目されつつあります。また、自然のままであることや色が変わっていく特徴も個性として受け入れられる時代が始まったのかもしれません。
そんな中で、木曽川染絨さんと出会いました。
木曽川染絨さんは丸編み素材を染めている染工場さんです。岐阜の木曽川のほとりに工場があります。
ここで、丸編み素材に草木染めをする技術を開発していました。
草木染めは手で染める手法や製品染めをする方法では存在していますが、染色機械を使って丸編みの生地を植物染料100%で染める工場は少なく、全国でも私は3社程度しか知りません。しかも、どこも消極的な印象でした。
笑顔のある暮らしを届けるために
コロナ禍の中で染色工場への発注は益々落ち込み、非常に厳しい状況となっていると全国の工場から聞いていたなかで、これからどうやって続けていくか。その道のりの悩みは尽きないだろうと思います。木曽川染絨さんの安藤社長からも、技術があるけど自ら発信できていないもどかしさを伺いました。
それでも、笑顔のある暮らしのためにモノを作り、ユーザーに届けたい。と木曽川染絨さんは立ち上がる決心をして、染色工場が製品ブランドを始める第一歩を踏み出すことになりました。社員の皆さんも、今まで生地を染めていた仕事から、縫製のことを考えたり、販売のことを考えたり、全く新しいことに挑戦する。人が変化を受け入れ、立ち向かうことは大変なことだと思います。そんな中、生き生きと話す工場の皆さんと出会い、感銘を受けました。
ファクトリーブランドを作る背景には、変化に立ち向かう工場の想いがあり、技術を守り、この存在を広めていく役目があると思います。そして、ユーザーの方々の笑顔を生み出せる商品を作っていくことが大事です。
環境や肌に優しい染色が、これからもっと広がっていけるように。
草木染めの良さや取扱方法を知ってもらい、心身が安らかに過ごせるような暮らしに役立つ価値を生み出したいと思います。