【梶原加奈子の想いごと】
熱く語りたくなる〈muto〉の究極織物
超極細の空気をまとうストール
富士山の麓で作られる、唯一無二のすごい布
わ〜!すごい!と、何度も言ってしまう美しい布。武藤さんのストールは、とても薄くて風合いが気持ち良くて、何度触れても稀有で素晴らしい存在です。
14年前に初めて武藤さんの布と出会い、自然に溶け込んだ空気をまとうようなストールが作れると思いデザイナーとしての興味が高まりました。透けるような柔らかな布を手に取ったときからずっと「絶対この布がいい。この布でなければならない。」と言い続けてきたように思います。
2017年に武藤さんの工場で製作した KANAKO KAJIHARAのストール
様々な人を魅了し続けるこの素晴らしい布を作る人は、一体どんな人なんだろう? 密かに武藤さんとお会いすることを楽しみにしていました。すると、工場から出てきたのは布から感じるイメージとは違った雰囲気で、力強そうな心もどっしりした方でした。天然素材にこだわっている武藤さんはお酒も好きで、機会あればお酒飲もう!と声を掛けてくれる陽気なところがあり、産地を盛り上げる楽しい方でもあります。
工場の庭にて、野球が得意な武藤英之社長
がっちりした手から繊細な糸が操られることに最初は驚きましたが、武藤さんが語る言葉はストールと同じように優しく穏やかでした。天然素材が好きでシルクやカシミア、極細の麻やオーガニックコットンなど、肌に触れて気持ち良い素材にこだわり、ありのままの質感をストールに表現したい。という気持ちを伺い、とても共感して笑顔になり打ち解けました。
シルク、カシミア、オーガニックコットン、ラミーの天然素材
豊かな自然の中で、ゆっくりと。
私は何度も富士吉田産地に出向き、一緒にモノづくりをしてきました。武藤さんの工場から見える風景の中に富士山があるのが印象的です。そして何より武藤さんの工場の近くに流れる水がとっても透明感があり、好きです。武藤さんの工場でも織った布を洗う水が溜まっています。布を作るとき、実は水の存在が重要です。水が豊かにある地域に、繊維産地も発展してきました。
〈muto〉の工場から見える富士山
〈muto〉の工場裏にある一級河川の桂川
この富士山の伏流水が、武藤さんの工場のワッシャーという機械に使われています。 綺麗な水でゆっくり洗うので、ストールの風合いを損ねません。私は工場を訪問する度、ここに溜まっている透き通った水を見るのが好きです。神聖な気持ちになります。
〈muto〉の工場のワッシャー機
武藤さんは、ストールの風合いを良くする為に切れやすい単糸の糸を使用しています。しかも天然素材の極細糸・・・。それを傷つけることなく織るために補強糸を天然素材の糸に巻き、強度を安定させてから織ります。
補強糸を巻く工程
さらに低速で動く昔ながらのシャトル織機を使って、カッタン、カッタン、優しい音を出しながら丁寧に、ゆっくりじっくり織っています。この製法は、実はあまり世界では残っていない希少なモノづくりの方法です。ゆっくり織ることにより、ヨコ糸がタテ糸をふんわりと包み込むように織り上げるため、風合いの良い生地が出来上がります。それは現代の成長と相反した動きなのかもしれません。でも、このような布こそ日本人の気質が宿っており、海外のハイメゾンからも人気を集めています。
〈muto〉のシャトル織機
古い織機は手入れも大変です。部品の修理など、武藤さんの2人の息子さんと共に仕事をしながら大切に大切にメンテナンスすることも、素晴らしい布作りには欠かせません。
機械を調整する工具やヨコ糸のシャトル
武藤さんのストールは多くの方を魅了し、今では様々なブランドとコラボしていますが、自社でもファクトリーブランド〈muto〉を立ち上げています。武藤さんの奥さんや息子さんたちが主体となり、工場にはお店もあり、最近はストールの他に服やタオルもあります。
富士吉田産地のファクトリーブランドさん達は「ハタオリマチ」という産地のプラットフォームに集まり共に発信していて、毎月第3土曜日に各工場を見学できます。 布に興味ある人たちが、工場の直営店に集まり交流が広がっています。地域活性化にも繋がる素敵な取り組みですね。
左:武藤圭亮さん 右:武藤亘亮さん 武藤さんの息子さん2名が新しい時代に向けて大活躍
猛暑でも、寒くても、いつでもそばに。
とても使い勝手が良い究極の極細ストールを私はよく身につけています。薄くてボリュームがあるのでたっぷり首まわりに巻きつけると冬は暖かく、夏は羽織のように広げて使うと涼しいです。超軽量でコンパクトにたためるため、バックの中に入れても持ち歩きやすく、夏場の日よけとしても、冷房冷え対策としても、パッと広げてすぐに使えます。ちょっとしたパーティーでも、このストールがあれば華やかになるので重宝しています。
これからの夏にも活躍するのが、麻の中でもトップクラスの細さを誇る500番のラミー糸で織られたストール。持ったとき、重さを感じないぐらい軽くて透け感が素敵なんです。それはまるで風のようなストール。どこまでも限界に挑戦する武藤さんからこの布を見せられたとき、やっちゃいましたね!と言いながら、こんな織物ができることに感動しました。
これからも共に限界を超えた挑戦を。
この間、武藤さん家族と話した時「みんなが難しいと思うような開発にこそ、チャンスがあると思っている。」と言っていました。限界を超えることを諦めない人たちであり、最高のクオリティを目指す気持ちが途切れることがない武藤さんチームと、これからも共に挑戦していけたらいいですね。
武藤さんの工場で働く人たち