繊細な世界のクリエイションは
工場へのリスペクトと信頼から
株式会社KAJIHARA DESIGN STUDIO
CRAHUGプロジェクトのクリエイティブディレクター梶原加奈子氏が手掛ける靴下のブランド〈COQ〉 パッと目を引くカラフルな靴下は、奈良県北葛城郡にある一つの靴下工場独自の技と知恵、そしてデザイナーの方々とのキャッチボールの中で創造されたものです。今回は、株式会社 KAJIHARA DESIGN STUDIOの代表取締役の梶原加奈子さんと野富株式会社の専務の古川さんにお話を聞いてきました。
―〈COQ〉立ち上げのきっかけを教えてください。
【梶原】以前から靴下に心残りがあって、前に私がやっていたgredecana(green de canakoの略)時代に、靴下作りを一緒にやりたいと思い、野富さんに連絡したのが始まりです。このブランドが8年目で終了となって、全国にgredecanaを楽しんでくれてたお客様がいました。そこで、テキスタイルが大好きな私が、テキスタイルが大好きな人たちに向けて、楽しく交流していけるようなきっかけを作りたいと思い、〈COQ〉を立ち上げました。そして、足元から暮らしのなかに元気なエネルギーを発信していきたいと思い、靴下から始めようと思いました。その際、個人で依頼するときに発注量は落とさないといけなく…そこに付き合ってくださったのが野富さんでした。
―創業1937年の御社は白リブソックスの製造から始まったそうですね。どういった経緯で現在に至りますか?
【古川】戦前から戦後にかけてのモノの無い時代に、ローカルな編み機で柄もカラフルな色はできませんでした。できることも畦・リブくらい。創業当時を聞くと、今より100本くらい少ない150~170本くらいの針数でミドルゲージで作っていたらしいです。ところが社長が変にこだわりがあったのか、240本でファインゲージだったら他社がやってないと、240本の機械に変えてしまったんです。当時は高度経済成長期。量を作って売ることが大事な時代に240本で作ってるから作っても機械から落ちてこない。周りからは「あいつアホやな、モノが売れる時代にモノ作りたくないんかな」って(笑)「変わりもんやな」って言われてたみたいです。柄が激しくなってきたのが、30年位前です。柄が簡単な花柄しかない時代に絵画のような柄をある会社さんと作り始めました。海外の展示会で出店し、日本の百貨店のバイヤーの目に留まったことがきっかけで”細かい柄イコール野富”となりました。
―梶原さんにとって、その野富さんが作る靴下に対するはじめの印象はどうでしたか?
【梶原】繊細で、履きやすくて、毎回難しいことをお願いしても開発に前向きに付き合って下さいました。かつ教えても下さる。私たちに靴下づくりを指導してくれて、私たちも靴下学校に入ったかの様に成長しました。そういった過程の中で、〈COQ〉の靴下には思いが宿っていきましたね。
―細かい柄が得意な野富さんにとっても、〈COQ〉の靴下は柄が複雑で製品化するのもやはり大変なのでしょうか?
【古川】柄も複雑なんだけど、ベースの色数が多いのが特徴です。ベースの色数には限りがあるんで。できるだけベースの3本までに抑えれるようにしないと見映えが良い靴下はできあがらないんです。大変だけど、編んでいる自分がほしいなと思ってる基準に到達しないとだめだと思いながら作っています。
【梶原】デザイン画の時点で「これ多分ダメだよ」と言ってもらえます。「じゃあこれどうしたらいいですか?」と話を聞きながら修正したり、もしくはデザイン画と全然違う感じで上がってきたと思ったら、「こういうことでこっちの方がきれいだよ」とかそういうやり取りが最初にあります。長年のお付き合いがあるんで、それが自然にできていますね。
【古川】デザイナーさんによっては触られるのが嫌という方もいます。でも、できるんであればそうしたかったけど、やってみて無理だったからこういう形であれば編めますよという意思疎通をしたいです。結局、編んだときにキレイに仕上がらなかったらデザインとかをやったところで駄作に終わると売れないだろうと思うので。
【梶原】そういうキャッチボールが、こう来たかと反対に気づかされることとか。キャッチボールがある開発をずっとさせてもらっています。「どうすればいいか分からないけど、ポコポコ表面感があるように膨らませたいんです」とか。〈COQ〉の靴下は表面がつるつるしたものというよりは、表面がテクスチャ―感があるものを今まで追い求めています。柄を細かく出したいというよりは、凹凸を出したいんですというお願いの方が多かったと思います。その凹凸の出し方が最初からできてたわけではなく、古川さんとやりながら、野富さんオリジナルの凹凸の出し方を学んできたという感じです。
(株)KAJIHARA DESIGN STUDIOに在籍するデザイナーさんたちが靴下のデザインを考えます。描かれた柄は工場のコンピューターでマス状にデータ化。
柄のデータは”カセットテープ”に出力されます。最近ではなかなか新しいカセットテープが手に入りにくいとか。
ー〈COQ〉の靴下をはじめ、梶原さんがSDGsに向けて取り組んでいたり、考えていることはありますか?
【梶原】工場の在庫糸を組み合わせてデザインすることで、余分な材料のロスを出さないようにしています。日本の工場と共に開発し、技術発展の支援にも貢献したいと思っています。
ー最後に〈COQ〉の今後の展望を教えてください。
【梶原】工場の野富さんに支えてもらい、ここまで継続することが出来ました。クリエーションと工場は同志であると思います。これからも一緒に取り組み、モノづくりに挑戦を続けていけるように、もっともっとテキスタイル好きな人たちと出会い、繋がっていきたいと思います。
梶原氏の生まれ育った北海道には”クリエイションを呼吸する場所”としての〈COQ〉の施設。