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VOL.01
【特集】
「クラハグ」って何?
2021年8月31日、CRAHUG(クラハグ)がスタートしました。CRAHUGは日本各地の工場と共に持続可能なモノづくりを目指すプロジェクトです。そんなことを言われてもピンとこないというあなたのために、記念すべき第一回目の特集は、「クラハグ」って何?というテーマをもとに、CRAHUGの大切にしている考え方や、CRAHUGがこれから活動していくことについて、全体の監修を務めるテキスタイルデザイナー梶原加奈子のインタビューからお届けします。この特集を読めば、きっとCRAHUGを身近に感じ、あなたにとっての「クラハグ」って何?に対する答えが見つかると思います。工場と共に、あなたと共に。ぜひ、ごひいきに。
梶原加奈子インタビュー
もくじ
梶原加奈子インタビュー
もくじ
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梶原加奈子 /
CRAHUG Creative Director梶原加奈子 /
CRAHUG Creative Director北海道札幌市生まれ。多摩美術大学デザイン学部染織科卒業。英国王立芸術大学院(RCA)ファッション&テキスタイルデザイン修士課程修了。テキスタイルデザイナーとして産地工場の素材開発とジャパンテキスタイルのグローバル発信に携わる。ファッション、インテリア、車、建築など様々な分野の企業と取り組み、クリエイティブディレクターとしてもブランディング監修を担う。札幌の森にショップ、ダイニング、ホテルの複合施設「COQ」を立ち上げ、ローカルにおける自然と共に過ごす暮らしのバランスを発信している。
テキスタイルデザイナーとは?
――テキスタイルデザイナーとして普段はどのような仕事をされていますか?
将来の発展に問題を感じている日本の繊維工場で働く人たちの相談に乗り、今後においての可能性を考え、課題解決や新事業立ち上げの行動に向けてサポートしています。各工場と関わる中で強みや足りない部分を分析し、そのうえで、どのマーケットに、何を作るべきか、どうやって販売していくのかをフォーカスし、販路開拓とリンクさせながら企画開発のアドバイスをしています。
テキスタイル(素材)は製品を作る時期よりも2~3年早めに開発をしていますので、過去や現在の動きを把握しながらも、未来についての分析が重要になります。環境や社会の流れがどう変化し、人間の心理が何を求め、どのような生活が必要となっていくのかということを常に考え、スタイルを想像し、色や柄や風合いのテキスタイルデザインを組み立てていきます。
私は主にパリやミラノのハイメゾンに対して、日本のテキスタイルを伝えていく架け橋となるような役目を担っていました。メゾンの方々とコミュニケーションをとり、彼らの求めるものと、日本の工場の作っていくものを掛け合わせていくような仕事です。そのなかで、日本の多くの職人さんと関わり、日々の悩みに触れながら工場の未来を考えてきました。
CRAHUGを立ち上げた想い
――CRAHUGを立ち上げるに至った経緯を教えてください。
世界の服地の生産地はアジアに移行し始め、日本の繊維工場は発注減少の問題を常に抱えながら歩んでいます。2015年頃から生地販売だけではなく製品販売にも挑戦するB to C向けファクトリーブランドの立ち上がりが加速化してきました。発注が減り続ける中で人件費が上がる日本のモノづくりの現場では、利益率が上がる自社製品事業への転換が必要になってきたからです。
その流れからKAJIHARA DESIGN STUDIO INC(以下KDS)に求められる仕事も変化し、クリエイティブディレクターとして全体監修していくことや、マーケット分析、ブランディング、セールスサポートに関わる機会が増えました。改革に取り組む過程のなかで、工場を経営する人たちや職人さんの悩みを聞きながら、未来をどう築いていくのか、人をどう育てていくのか。これからの希望を見出して、産地で出会ってきた人たちと行動していきたい想いは募っていきました。
実際にブランド運営をするなかで、同じ問題に毎回立ち止まります。まずはスケジュール管理の難しさです。どうしても従来の委託発注を優先にするので、自社商品の開発のスピードが遅れやすい。また、新しい事業の企画や販売をしていくための人材不足も毎度悩みの種です。在庫量を多く持てない状況もあり、小ロット生産や受注による生産の仕方にも工夫が必要です。プレス戦略に関しても、ターゲット検討や発信内容のフォーカスや経費の問題があり後手になりやすい。ファーストシーズンはうまくいっても、ブランディングの軸を保ったまま事業として継続していく難しさを経験し、葛藤を続けてきました。
そして現在、コロナ禍によって自社販売の事業は新たにD to Cの販路開拓に向けてEコマースやWEBとの関連を視野に入れる必要があります。店頭販売の減少にともない、どうお客様と知り合い、交流していけるのか。
1社1社では解決ができない問題があるけど、話し合ってきたことを、もっと多くの方と共有して工場の発展の道を見つけていくことが出来れば。この産業の転換期における葛藤を超えていくために、何か、励みになるチームを作っていきたいと考えていました。ファクトリーブランドが集まって悩みや希望を語り合い、協力しながら活動できる場をデジタルとリアルで作っていくのはどうだろう。リアルで人と人が出会い関わることに感動があるからこそ、伝えたいものが生まれる。そこから育まれる商品や人や出来事をデジタルでも伝えていく。このプラットフォームの構想がCRAHUGとして形になり、世に出ることになりました。
CRAHUGの名前の由来
――CRAHUGの名前の由来を教えてください。
私は世界で仕事をしていて、日本の感性が評価されている場面を何度も見てきました。機能性に優れていて、多面的な使いやすさを追求していて、人や暮らしを想いやるプロダクトを生み出す力が私たちの成長してきた日々のなかにある。その日本人の内面のこだわりが、世界からリスペクトされていることの1つではないかと思います。人と人が気遣う謙虚さから発展する日本のモノづくりは、侘び寂び独自の美意識と文化を継承し現在でも世界から必要とされる唯一の商品を作れる人がいるのだと思います。
これから世界に日本の工場で作られたモノづくりを伝えていくために、工場の人たちと協力し合いながら考える商品は、やはり日本らしい観点を継承したものでありたい。そして、それは暮らしを便利に豊かにする優しいものでありたい。今回の活動に向けて、私は人と人が向き合う心を込めたいと思ったため、CRAFTSMAN(職人)とHUG(ふれあう)するイメージと、LIFE(暮らし)をHUG(包み込む)するイメージを掛け合わせて、「クラハグ」という言葉をプロジェクト名にしていきたいと思いました。
共同プロジェクトについて
――CRAHUGはオンワードとの合同のプロジェクトとのこと。どうしてオンワードと?
近年の大衆という枠組みが変化し、マーケットはダイバーシティ化に進んでいきます。個々の消費者の細分化したニーズに向けて、企画力や発信力を磨いていくことが今後の企業の鍛えていくべき方向性の1つではないかと思います。
オンワード・クローゼットも多様性が発展する時代に向けて新しい取り組みに挑戦していくタイミングであり、CRAHUGが取り組むファクトリーブランドにとっても、オンワード・クローゼットで発信できれば多くの顧客と繋がっていける機会となります。
これから小売もアパレルも商社や問屋、そして工場も、一線に並び、D to Cに向けて企画意識が高まると思います。そのなかで、モノづくりの考えや価値を共有したコラボ発信の動きは増えていくと思います。CRAHUGの目指す、想いやりがある暮らしを提供していきたい方針は、オンワード社が長年積み重ねてきた丁寧で安心感があるモノづくりの方向性と重なり発信力が増していくと感じています。
CRAHUGのメンバーについて
――どのようなメンバーで構成されていますか?
オンワードデジタルラボのデジタル事業でEコマース分析やWEBマガジン発信の経験を積んだ方がリーダーとなり、共にCRAHUGの方向性を作っていきます。また、オンワードに入社して2年目のこれからのモノづくりや日本のファッション産業を考える4名の若者たちが参加し、チームを構成しています。私は全体の監修に関わり、チームの考えを統括し、CRAHUGと工場を繋げていく役割を担っていきます。またKDSとしては、今まで培ってきたブランディングやデザイン面でサポートをしています。
CRAHUGの活動について
――具体的にどのようなことをするのでしょうか?
CRAHUGは工場と共にこれからの循環社会に向けたモノづくりを考え、そのあり方や可能性を「もの、ひと、こと」の視点で発信する独自のジャーナルサイトやイベントを運営していきます。そしてファクトリーブランドが生み出す商品を、現在およそ370万人の会員がいるオンワードEコマースサイトのオンワード・クローゼットにて販売していきます。その他、海外Eコマースと連携してグローバルな販路開拓をしていきます。
また、D to C事業の立ち上げや製品ブランドを作りたいけれど、一歩踏み出せなかった工場とも向き合い、立ち上げのサポートやデザインを提供し一緒にモノづくりをしていくこともあります。
CRAHUGに参加する工場と工場が出会って、何かの発想の種になったり、新たなモノづくりが生まれるキッカケが出来ればいいなと思っています。そのために生地の工場だけではなく、金属や木工、コスメなど様々な分野の工場とお会いしていき、ジャンルを超えた工場同士のマッチングを促進していければと思っています。
CRAHUGがめざすもの
――クラハグの目指していくことは?
このような活動を通じて、日本の産地が元気でいることを後押ししていきたいと思います。持続性や継続性はCRAHUGが大切にしていくテーマであり、循環していく社会の構築を目指します。
CRAHUGで扱う商品は、あなたの生活に大きな変化をもたらすものではないけれど、日常にそっと溶け込み、ささやかな幸せを届けてくれます。慌ただしい日々のなか、ふとした時に目に留まり、日本のモノづくりに想いを馳せる。きっとこの瞬間があなたの日常を豊かにしてくれるはずです。日本と世界、作る人と使う人、あなたとわたし、人と人との懸け橋となるCRAHUG。あなたにとって誰かとつながる懸け橋がCRAHUGであればいいなと思います。
Photo by Isao Hashinoki