本質の追求は上質な履き心地を生む
野富株式会社
何か新しいものに触れたとき、それに感動して身がぞくぞくと震える。なかなかない経験かもしれませんが、そんな感動を与えてくれる一品が世の中にはあるかもしれません。
240本の針で編まれた、綿密な編み組織の靴下は、以前”変わり者”と呼ばれた工場で作られています。国内の靴下工場が減少していく中で、新しい挑戦を続けた結果、そこにしかない技術を手に入れました。今回は、そんな技術を持ち、新たに自己発信の製品を製造したいという志から〈ZOKZOK〉を立ち上げた野富株式会社、専務の古川さんにお話を聞きました。
>>野富株式会社の工場のこれまでについてはこちら(COQのインタビュー記事で紹介しています)
―なぜ〈ZOKZOK〉を始めようと思いましたか? 現状、ほとんどがBtoBの仕事で、どこかの企業さんからのデザインの依頼がきてそれを言われた通りに作り、販売させていただいてるっていうのが形態になっています。正直、国内で非常に量が売れる時代は、利益が薄くても量が出て行ってくれてたのでよかったんです。しかし、市場の縮小と共に出荷量が減っていく中で、何か一から作れるという工場の強みを生かして最終形態まで作りたい。自己発信型のモノづくりをしていかないと事業自体が成り立たないという強い危機感から自社ブランドを始めていこうとなりました。
―そういうお考えがあって最終的に今の〈ZOKZOK〉というファクトリーブランドの形に着地したのですね。古川さんが靴下を作られる上で一番難しいこだわりのポイントはどこですか?
柄表現はないため派手さは無いが、履き心地の上質さを追求して素材と編み組織にこだわっている点です。柄は本当に表見が伝わりやすくてその人が持っている世界観がそのまま伝わるので伝えようとするならば柄なんですが、作り手の僕たちがデザインをしろといわれると、クリエーターではないので継続的に毎シーズンの柄が出てこないです。まずはどういう原料を使うかっていうのと、どのような編みをして履いてただくかっていう“素材訴求”と“編み組織の訴求”というところに重きを置こうと思っています。ZOKZOKの靴下を買えば履き心地がよくてきちんと編まれてるという意識を与えられるブランドに育てていきたいなと思います。
職人さんの手で縫い目と縫い目を繋ぎ合わせる『ハンドリンキング』の技術は随一。つま先の段差がない上質な履き心地を生みます。
―モノづくりをされる中での喜びを感じる場面を教えてください。
まず最初に販売しているのは卸さんなんですが、ファッションショーに出すために依頼されてそれを具現化ができたときにこれいいですねといっていただいたとき。そして、そのシーズンに店頭に(自分たちが作った)商品が並んだ時の消化率っていうのが結構100を割ることがない。ユーザーの声を直接聞くことはできないんですけれども数字で自分たちの製品の良さが表れているのかなと思いますね。
―ZOKZOKを通して、今度はエンドユーザーの声が聞けるといいですよね。
物を作って共感していただく、お買い上げしていただくってことがこんなに大変なのかっていうのをひしひしと感じています。同ゲージの温かみのある見るからにざっくりとした靴下か、かわいらしい切り替えがたくさんあるような柄の靴下とかはECサイトでもわかりやすく伝わるんですけど、無地の世界で、体感してもらわないと分からないところで売るっていうのは本当に難しいですね。
試作段階の「キュプラメランジリブ編みソックス」
「キュプラメランジリブ編みソックス」は着用するとリブとリブの間のカラーが広がって、また違った表情を見せてくれます。
―今後の展望について教えてください。
B toBの世界で薄利を頂戴して仕事をするということに破綻が来てしまうという危機感を持っておりまして、商流の構造を変えていくことが大事だと思ってます。企業から依頼が来て物を作って納めるという、デザイン料や営業経費を持っていかれてしまうところを取り除けば、もっといい素材をより安価でお客様に提供できます。工場も利益をもらえるし、それを買われるお客様もブランドライセンス料を除外された上代で購入できるような、ブランドネームではなくて本質を見極めて買っていただけるような世界になればいいなと思っています。バブル時代を見てきた私たちの世代は、ブランドを持っていることがひとつのステータスでしたが、今は上質なものであれば問題ないと若い子たちの考えも変わってきていると思うんです。ものの本質を感じていただいて、上質なものを作っている工場なんだと認知していただけるように提供していけばお客さん・作り手の両方にとってもより利益が残せます。そういう工場発信型の製造・生産体系をとっていきたいなというのが希望ですね。